ヴァイオリンの弓選びを開始してから1か月が経った。試した弓は15本くらい。でも、まだ「スゴイ!!」と思える決定的な弓に出会っていない。
弓選びはかなり難しい。ヴァイオリンの時のように、試奏してすぐに「好き嫌い」が分からないのだ(少なくとも私には)。
もちろん弓はヴァイオリンとの相性があるから、「全てのヴァイオリンに良い弓」というのはなかなかない。だからとにかく、自分の楽器で試さないといけない。
しかし今日は、「良い弓を買うための一般的な知識」をまずは確認してみたい。
良いバイオリンの弓を選ぶために知っておきたい7つのこと
1.状態
もし将来、弓を売る可能性があるならば、購入する弓の状態については慎重にならなければならない。弓のクラックは、ヴァイオリンのそれよりはるかに大きな問題となることが多いのだ。
弾く分には全然問題にならないことでも、売るとなると価値を大きく損なう問題が弓に潜んでいるかもしれないからだ。
年代物の弓(Classic bow)の部品がオリジナルでなく、後世に付け替えられた場合、価格はすべてオリジナルな部品の弓の半分にまで下がると言われている。しかし、それでも上質の年代物の弓は半値とは言えども、良い値段で取引される。
【絶対に避けた方がいいダメージ】
- スティック部分のクラックや破損
- 先端のクラック
- 8角形のスティックで、側面の角が摩耗して取れてしまっているもの
- フロッグの一番下(heel)にあるクラック
- スティックに焼き跡があるもの
5の「スティックの焼き跡」について。
通常、弓に使われる木は自然乾燥されたものを使うが、そうでない場合、火を使って無理に乾燥させた可能性がある。
また、形状に問題があった場合にも、火を使って無理な力を加えて弓をカーブさせた可能性もあるといわれている。
2.腰の強い弓
「ふにゃふにゃした弓はダメ」「良い弓は腰が強い」と聞いたことがあるかもしれない。しかしうどんの話ならまだしも「腰の強い弓」とは何だろう?
それは、右手人差し指で弓をクイッっと弦に押し付けた時、弾力のあるもの。弓の毛がスティックにくっついてしまうような弓は、柔らかいと言っていい。
腰の強い弓は、音が立つ。ぼんやりした音でなく、芯が感じられる。そのため音がよりクリアで、音量も大きい。しかもピアニッシモでも音がかすれずに出る。
どんなに有名な製作者の弓であっても、弓毛が長期間にわたって張った状態のまま保存されていたり、乱暴な弾き方をされてきていたら、弓の腰も失われると言われている。腰の強弱は自分で弾いて試すしかない。
3.長さと重さ
18~19世紀の弓は、20世紀以降のものより短く、軽く、また柔らかい傾向があるという。しかし、それ以降、演奏スタイル(おそらく奏者の体形も?)が変わったことにより、弓もより長く、重く、硬く変化した。
男性と女性でも身体的な違いから、好みの長さと重さは違ってくるし、弾く曲によっても違ってくる。
個人的には59~62gくらいが扱いやすい(ヴァイオリンの場合58~63gが平均値)。軽い弓はモーツアルトや早いパッセージには向いているような気がするが、ベートーベンのような鋭く重い音を出したい時に物足りなさを感じる。
弾く曲によって弓を変えるというプロの友人もいるが(彼女は5本も持っている!)、霧立はとりあえずオールラウンダーの弓を探している。
4.バランス
バランスは重さ以上に重要だ。確かに、バランスポイントが違うと、実際よりも軽く感じたり重く感じたりすることがある。
だから、試奏する前にあまり重さにこだわらない方がいいとも言える。
45℃のアングルで弓を持ち、自然に持てるものが目安。先端部が重くてもダメだし、フロッグ部分が重く感じられても良くない。
バランスポイントは弓によって違う。まずはその弓のバランスポイントをつかまないと、うまく扱えない。弾きこんで比べることが重要だ。
5.鑑定書などの書類

世界的に有名なRaffinの鑑定書。
上質な弓を買う場合、誰もが気にするのが「ニセモノだったらどうしよう…」という問題。
もちろんプレイヤーにとっては、弾き心地と弓の性能が一番重要だ。しかし、弓の値段はやはり製作者の知名度と弓の状態によって決まるものなので、いくら性能がよかったからといって本来より多額の金額を払わされたらたまらない。
高価な弓の場合は、鑑定書や少なくともお店の人からの属性を証明するドキュメントをもらっておきたいところだ。そうでないと、保険をかける段階の査定でニセモノだと判明し、真っ青になる場合もあるそうだ。
万が一、あとでニセモノだと判明した場合、ドキュメントがあればお店に交渉出来る。楽器店は信用をとても大事にしているので、たいがいの場合は真摯な対応をしてくれるはずだ。
ある楽器店で聞いた話だが、修理でスティックのラッピングを交換しようとしたときに、なんと木がラッピングの下で接ぎ木されていたことが判明したという。
弓を買う時に誰もグリップ部分のラッピングを取ることは出来ない。製作者のスタンプ部分だけが本物で、それより上は別の弓だった…なんという悪夢!!
この業界は昔から腹黒い業者がいるので、オークションで素人が買うのは相当な注意が必要だ。
【オークションでニセモノをつかまないために】
- 世界的に権威のある鑑定士の鑑定書があるものを選びたい
- 自分の判断に自信がなかったら、プロフェッショナルな目を持つ人に相談する
- とにかく試奏!試奏!
- 以前のオークションの残り物でないか、また落札されたがすぐに返品されたものでないか要確認!
フレンチボウの鑑定士として世界的に有名なのは、Jean-François Raffin。ある楽器屋の店主いわく、「彼の鑑定が付いているなら、オークションでもまあOKなんじゃないかな」ということだった。
6.製作者の国
ヴァイオリンであればイタリアが有名だが、弓ではフランスが卓越していると言われている。しかし、フランス製は少なくとも£10,000(150万円)以上出さないと良いものが手に入りにくい。日本では300万円は下らない。
このブログの読者で、偶然同時に弓探しをしていたヨーロッパ在住の方の情報によると、やはりコストパフォーマンスがいいのはドイツ製の弓だったとか。€10,000クラスのフレンチボウも試したが、そこまでよいと思うものに巡り合わなかったとお聞きした。
フランス製にこだわるのではなく、ドイツ製、イギリス製の弓も定評があるのでぜひ試してみたい。フランス製と同等のものが、ずっとお手軽な価格で手に入る可能性がある。
7.試奏する曲
色々なタイプの曲で試奏してみよう。バッハとモーツアルトではボーイング奏法が全然違う。スタカート、スピカート、大きなゆったりとしたボーイング、早いパッセージ、重音など全て試す。
でも、これはヴァイオリンを選ぶ時と同じなのだが、上手に弾けない曲で試奏しても意味がない。弾くことに一生懸命になってしまうので、弓の性質に注意を払えないからだ。
霧立は、昨日久しぶりにベートーベンのソナタ「クロイツェル」の楽譜を引っ張り出してきて弾いてみた。
「おお、これは弓の性能を試すにはもってこいの曲だ!」と思ったのだが、あまりに久しぶりすぎてまともに弾けず、撃沈…。
試奏には自信をもって弾ける曲で臨もう!
まとめ
ヴァイオリンも弓も、手作り品は一点もの。自分の楽器や演奏スタイルとピッタリあう弓を探すのは、簡単なことではない。
でも、こうした基本事項を押さえておくと、ずっと取捨選択しやすくなるはずだ。みなさんが、心から満足できる弓に出会えますように!