イギリス人の時間感覚とマナー
日本人は本当に時間に正確である。
海外で暮らしていると、時間感覚が国民によってだいぶ違うことに驚く。今日は、イギリス人の時間感覚とマナーについて書いていきたい。
ルーズなわけではないイギリス人
家にゲストを食事に招くことがある。
イギリスに越してきてまだ日が浅い頃、指定した時間にゲストが来なくて
(あれ?日時、間違って教えちゃったかな??)
と心配になったことが何回かあった。まあ、10分くらいの遅れは欧米では普通かなと思っていたのだが、時々30分くらい遅れてゲストが来ることもある。
初めはイギリス人が時間にルーズなのかと思った。
しかし、イギリス生活が長くなってきて、どうもそうではなさそうだ、ということが分かった。彼らには独自の「時間感覚」があるのだ。
例えば、霧立が経験した範囲で言うと、イギリス人は次のような場合、かなり時間に正確だ。
- 子どもの学校の送り迎え
- 習い事のレッスン開始時間
- 外で友達と待ち合わせをする場合
- オーケストラの練習開始時間
- 冠婚葬祭の開始時間
このような場合は、日本人とほとんど変わらないくらい、イギリス人は時間に正確。
「やろうと思えば出来るんじゃん!」
と思った。イギリス人は決して時間にルーズなわけではないのだ。
食事に招かれたら遅れるのがマナー
“Be Fashionably Late”
しかし、ことが食事の招待となると、イギリス人の時間感覚は一気に進みが遅くなる。
ホストが食事の準備や家の片づけで慌ただしくしていることを気遣って、わざと遅れるのである。これはイギリスだけではなくアメリカやオーストラリアでも経験したことだ。
このような気遣いを”Fashionably late”(洗練された遅刻)とよぶ。逆に言えば、7時に招待を受けた場合、7時きっかり、あるいは10分以内に到着した場合、あなたは「空気読めない人」「文化的でない人」と考えらえる可能性が高い。
時間前に到着するなどもってのほか!もれなく、「ソーシャルスキルのない人」と思われるのがオチだ。
また”Fashionably Late”のもともとの由来は、パーティーに遅れることは、周囲にあなたがセレブだという印象を与えることにあると言われている。
つまり、「多忙な人=とても時間通りに来られないサ」ということだ。もしあなたが指定時間きっかりに玄関に現れたら、
「私は誰も相手にしてくれなくてヒマな人間なんで、もう来ましたよ~」
という印象になるらしい!つまり、遅刻の度合いとステイタスは比例するといういうことだ。大物は後で登場。ここまでくると、ちょっとバカらしくて霧立はついていけない…。
まあ、これは大人数集まるパーティーの場合で、個人的に食事に呼ばれて大幅に遅刻するのは逆にマナー違反だ。しかも、霧立のような庶民が大幅な遅刻をしたら、「なんか勘違いなヒト」になってしまうので、「小物」は大それたことはしないに限る。
どれくらいの遅刻がベストか?
自分のステイタスの演出のためにわざと遅刻するのは、エゴ丸出しで鼻持ちならない。しかし、ホストに気遣って遅刻するのはぜひ覚えておきたいところ。
では、イギリスで食事に招かれ場合、どれくらい遅れるのがいいのか?シチュエーション別にみていきたい。
【ディナーに招待された場合】
15分~20分:ベストタイム。別に「遅れます!」の連絡を入れなくても全然問題なし。
30分以上:「遅れます!」の連絡を入れた方がベター。
ディナーに招待された場合、ホストは時間を計算して料理しているので、15分以上の遅刻は避けた方がいいと言われている。
【大人数が集まるパーティーに招待された場合】
30分~45分:ベストタイム。15分程度の遅れだと、まだ誰もいない可能性大!
1時間:別に問題なし。招待客がほとんど来ているので、寂しい思いをしないで済む。
1時間半:そろそろ本来の意味で”Fashionably Late”な感じ。パーティーは始まっているが、ちょうと盛り上がってきたところ。
これは、大人数が集まる大人のパーティーにだけ当てはまる。子どものバースデーパーティーは通常2時間で終了なので、オンタイムでいかないと悲しい結果に。
シチュエーションと集まる人の国籍を考慮する
以上は食事やパーティーに招待された時の場合。しかし、シチュエーションによっては”Fashionably late”が単に”Annoying”(迷惑)になることにもある。
また、イギリスにはいろんな文化背景を持った人が暮らしている。一口に「イギリス人」と言ってもスコットランド人とアイルランド人では時間感覚が違う。(アイルランド人のほうがのんびりしている。)
そのため、シチュエーションと集まる人/ホストの国籍を考慮することは重要だ。
ミーティングや練習
全員そろわないと何かを始められないシチュエーションでは時間を守った方がいい。(食事に招待された場合は例外。)
ミーティングやオーケストラの練習は、遅れるとひんしゅくを買う。(イギリス人は礼儀正しので、決して露骨に顔に出さないが。)
国籍
ある時、友人宅で非公式な室内楽の練習&チーズフォンデュ・パーティーがあった。練習の遅刻は通常タブーだが、これは友人宅だし、その後にパーティーだし…とちょっと迷った。
そして霧立は、「友人宅に行く=遅れる」のマナーを当てはめて、15分遅れて行った。そうしたら、もうみんが楽器を出して準備万端で、「霧立待ち」状態でいた。
「あれーっ?みんな早くない?ごめんごめん!」
と謝りながら急いで楽器を出し、気が付いた。
「そういえば、集まるメンツの国籍を考えに入れなきゃいけなかったよね、忘れてた!」
「そうよ。このメンバーは、スイス人、ドイツ人、ドイツ人の母親に育てられた人…普通のイギリス人は3人だけだもんね!日本人は時間に正確なんじゃないの?」
と笑われた。
「日本ではね!でも、ここはイギリスだから…食事の準備とかしてると思った。」
と霧立が言うと、
ホストは、
「チーズ・フォンデュは朝から準備しておいたのよ!私はスイス人だからね。」
ニヤリとして言った。
そうなのである。
ドイツ系(ドイツ人、スイス人)は時間に正確なのだ。それからついでに言うと、オランダ系(オランダ人、ベルギー人)もそうだ。
ヨーロッパに住んでいると、「欧米人」とひとくくりに出来ないことがよくあることに気づく。シチュエーションとメンバーの国籍を考慮することは重要だ。
イギリス人の時間感覚と知恵
このように、イギリス人の時間に対する感覚は驚くほど流動的だ。
家の修繕を頼んだ修理工はたいてい30分は遅刻する。仕事なのに、遅れても「ソーリー」すら言わない。友人に話すと諦め顔で、「彼らはいつもそうなのよ」と言う。
つまり、イギリス人は「単一の時間感覚」を持っていなのである。状況や国籍、または階級によって、時間の感覚は流動的になる。
そして、そういう要素を全体的に考慮して生活することがスマートな生き方なのだ。いちいち遅刻にイライラしたりしない。
友人のカースティンは、多文化を経験してきたカナダ人だ。だから、ゲストを招待するときに、人によって時間をずらして告知するという。いつも1時間半遅れるイングランド人の友人には、1時間早めの時間を告げている。
「それでも30分遅れるから、ちょうどいいのよ」
とカースティン。見習いたい知恵である。
というのも、霧立の義父は日本人でも驚くほど時間に正確だ。いや、正確に言うならば不正確だ。というのも、7時に集合と言われたら、6時45分には必ず集まらないと気が済まないからだ。
しかも、彼の腕時計は10分近く早めにセットされているので、時間通りに7時に来た人は遅刻扱いされてしまう。7時15分?そんなのは、完全にアウトだ。
義父はイギリスで生活していたこともあるのだが、一体どう見られていたのだろう…?と一瞬不安が走る。
とにもかくにも義父には7時に来てもらいたかったら、「7時半」と告げよう。霧立がイギリスで学んだ知恵である。