イギリス人よ、なぜハロウィン?ボンファイヤーがあるじゃない!
数日前、ハロウィンがあった。
読者の中には、「ハロウィンは欧米ならどこででも祝われるんでしょ?」と思っている人がいるかもしれない。しかし、そうではない。
ハロウィンはアメリカの文化であり、そもそもヨーロッパでは一般的ではなかった。そう、ここ最近まで…。
霧立一家が住むイギリスでもハロウィンは年々浸透してきている感じがする。そして、霧立はなんだか素直に楽しめない。イギリスには”Bonfire Night”(ボンファイヤー・ナイト)という伝統的なお祭りがハロウィンの5日後に(!)あるのだが、ハロウィンのせいで相対的にお祭り気分がそがれる気がするからだ。
今日は、
- イギリスの伝統行事、ボンファイヤー・ナイトについて興味のある人
- ハロウィンを祝うことに「?」を持っている人
- イギリスのハロウィン事情を知りたい人
- 多様性や文化について考えたい人
に向けて書いていきたい。
ボンファイヤー・ナイト
イギリスでは伝統的に毎年11月5日に、「ボンファイヤー・ナイト」(あるいは「ガイフォークス・ナイト」)というお祭りが祝われる。
歴史
1605年、時の王様(ジェームズ1世)の宗教政策に怒ったカトリック教徒が王様暗殺を企てた。王様が議会の開会式に出席する11月5日を狙い、国会の地下に36個の火薬の入った樽を秘かに準備。王様が来た時に爆発させるという計画だった。
しかし!暗殺は未遂に終わった。計画が事前に警察に漏れてしまったのだ。首謀者だったガイ・フォークスとその仲間は処刑された。
翌年、議会は11月5日を王様の安全をお祝いする日として制定。
- 今でも議会が開かれる初日には、地下に誰も隠れていないかチェックする!(いるわけないデショ!)
- 事件以降、今でもカトリック信者だと王様や女王になれない法律が出来た!
何をするの?
かがり火を焚いてそれから花火をする!
ガイ・フォークスたちによる「国会爆発計画」を思い起こし、かがり火を焚くのだ。そして、ガイ・フォークスに見立てた人形(藁人形、あるいは古い服に新聞紙を詰め込んだ人形)を火であぶるのだ。子どもたちが藁人形を燃やして喜んでいる姿は、かなりシュール…。

ガイ・フォークスに見立てた藁人形を、昼間は町中引き回し、夜に燃やす子どもたち。
またイギリス全土で、この日は花火が盛大に打ち上げられる。花火は暗殺計画で使われた「火薬」と結びついているようだ。
一番大きな花火大会は、ケントのエデンブリッジ(Edenbridge)。またここでは焼かれるガイ・フォークス人形も国内最大と言われており、9メートルもあるそうだ!大きな町の花火大会だけでなく、個人でも庭や近所の公園などで花火を打ち上げる。
この時期になると、スーパーでも花火が並ぶ。しかし花火を買うのは日本のように簡単ではない。レジで頼むと鍵のついた倉庫から花火係の店員が花火を持ってきてくれるのは、歴史的に火薬に神経質になっているからか…。
11月に入ると、あちこちで花火が上がる。「ああ、冬が来たなぁ」と思うわけである。
- イギリスでは1959年まで、ボンファイヤー・ナイトをお祝いしないことは違法だった!唯一の例外は、ガイ・フォークが小さい頃に通っていたヨークの小学校。今でもガイの人形を焼くことはしないと言われている。
- イギリスでは18歳にならないと花火を買えない!
- イギリスでは普通は夜11時以降は花火禁止だが、ボンファイヤー・ナイトとニューイヤーは1時までOK!
Food
庭でかがり火を焚いて、あったかいものを食べる。一番伝統的なのはアツアツのベイクド・ポテトにバターとチーズをたっぷり入れたもの。いかにもイギリスって感じだ。かがり火の上で焼くらしい。かがり火で焼けるものなら、なんでもOK。
イギリス人にハロウィンは似合わない!
ボンファイヤー・ナイトは、これだけで十分楽しそう。それなのに、近年イギリスでもハロウィンが徐々に浸透してきた。
初めは「ハロウィンはボンファイヤー・ナイトに近すぎるから不要」「ここはイギリス。ハロウィンはアメリカの文化でしょ?」という声もチラホラ聞こえたが、最近はすっかり「ハロウィン旋風」にかき消されてしまっている。
9月になり学校が始まると、突如としてお店には「オレンジ色×黒」のコーナーが出現する。ハロウィン商品である。
しかし、はっきり言ってイギリス人にハロウィンは合ってない。イギリス人は基本的に礼儀正しくシャイだからだ。彼らはバレンタインデーに、必ず匿名でラブレターを渡すほどシャイな国民なのである。知らない人の家の玄関を突然ノックして、”Trick or Treat!”なんて言っても、ちゃんちゃらおかしいのである。
だから、霧立家に来る子供たちもどこかおずおずして控えめ。言葉では”Trick or treat!”と言っているものの、顔では
” Sorry for surprising you but would you mind if we ask you to give us some treats? “
(「突然お訪ねしてすみませんが、よろしかったらお菓子か何かもらえるでしょうか…?」)
と言っている。イギリス人のものの頼み方はとっても遠慮深く、長ったらしいのである!間違っても”Trick or treat!”なんて言わない。
しかも、親同伴で来たりするとますますおかしな感じだ。丁寧にお礼を言っちゃったりなんかして。
「知らない人の家を突然夜訪ね、お菓子を乞う。」というとっぴな考え(?)とイギリス人の行儀正しさはどう考えても釣り合わない、と霧立は考える。
あれは、どう考えても陽気なアメリカ人の文化だと思う。
グローバル化はアメリカ化?
「グローバリズム」というのはもはや「死語」ともいえるほど、グローバリズムは当たり前の世の中になった。そのこと自体、悪いことでは全然ない。世界は多様性に寛容になるべきだと思うし、異文化体験は視野を広めてくれる。
しかし、よく考えてみるとグローバル化はとどのつまり、世界の「アメリカ化」なのではないか?
マクドナルドは世界中にあるし、スターバックスは最近コーヒー本場のイタリアにまで進出したという。
映画といえばハリウッド映画。原作ではイギリスが舞台の『マチルダ』は、映画では舞台がアメリカに代わっていた。
グーグル、フェイスブック、アマゾンなどITの世界でも、アメリカの影響力は絶大だ。
そしてハロウィンにベビーシャワー。世界のアメリカ化の波は、その国の文化や多様性を飲み込もうとしているように思える。アメリカ人の陽気さは好きだ。でも、
そんなの、つまらない。
と霧立は思う。多様性があるからこそ、この世界はおもしろい。
EUが出来た時、ヨーロッパの国々はそれぞれの文化を保持する意識に目覚めたと聞いたことがある。EUとして一体化することによって、伝統という文化財産を失うことへ恐れを感じだのだろう。
文化はアイデンティティーの一部。イギリスにはイギリスの良さがある。ハロウィンのようなアメリカ文化によってイギリスのボンファイヤー・ナイトが下火になったら、それはとても残念だ。
霧立はせっかっく今はイギリスに住んでいるから、日本の文化を大切にしながらもイギリス文化を楽しみたいと思っている。