ロンドンでオークションでヴァイオリンを買う秘訣!
一般人も参加するオークション
ここで言う「オークション」というのは、インターネットで個人が出品しているようなオークションではない。世界中からバイヤーが集まり、事前に公開されている楽器を手に取って見て、それからオークション当日に会場でセリによって成約をしていくオークションの話である。
「オークション」というと、弦もまともに張られていないような楽器の価値を自分で判断して指値をする、というイメージから警戒する人もいるだろう。また、オークションはプロのディーラーが参加するもので、一般人とは無縁の世界と思っている人もいるかもしれない。
しかし、近年のオークションはその敷居を下げ、ずいぶんと一般人にも参加しやすくなっている。
今日は、ヴァイオリン探してロンドンまで行った際に霧立が訪れたオークションハウスについてお伝えしたい。ヴァイオリンを少しでも安く買いたい!と思っている人にはぜひ読んで頂きたい。
Ingles & Hayday
店舗情報
住所:77 Great Titchfield Street, London, W1W 6RF
Email: info@ingleshayday.com
Tel: London: +44 (0) 20 7042 7337 New York: +1 646 480 7038
ホームページはこちら。
前回紹介したJP Guivierから歩いて2、3分の場所にあるIngles & Hayday(この辺りは楽器店が多い)。目立たない裏通りにあって、通り過ぎてしまいそうになるほど店構えも地味。とても総額何十億円の商品が置いてあるお店とは分からない。
さすがにドアはロックされているので、ブザーを押して開けてもらう(これはどこの楽器店でもそう)。店内はシンプルだが高級感のある試奏ルームが奥にある。
このIngles & Haydayにある楽器にはちゃんと弦も張ってあるばかりか、試奏も出来るのである。またそれぞれの楽器についての資料も提供してくれるし、中には鑑定書が付いてくる楽器さえある。
オークションの参加方法
試奏して買いたいと思った楽器があったら、オークションに参加する。セリへの参加は次の4通り。
- オークション当日、オークション会場でセリに参加する。
- オークション前日までに自分の指値の最高値をオークションハウスに伝えておく。
- ライブのオンラインで指値をする。(手数料は落札価格の3%)
- 電話でオークションハウスのアシスタントを通じて指値をする。
2から4はオークション会場にいなくても、参加できる仕組みになっている。それぞれ事前登録が必要。(くわしくはこちら。)
オークションハウスでの試奏
霧立の予算を伝えたら、なんと25本ものヴァイオリンとその資料が提供された。これには参った。相当効率的に試奏しないと、何時間もかかって挙句の果てに何も分からなくなってしまうという事態になりかねない。
こういう時に役立つのが、「楽器店で試奏する時の3つのポイント」である。作りの良さ、致命的なクラックがないかなどの健康状態をチェックする(くわしくはこちら)。それから見た目で明らかに好きになれそうもないものははじいていく。
そうすると25本が半分以下までに絞れた。しかしそれでも、普通は一回の試奏は5本が限度だ。マナブにメモをとってもらいながら試奏したが、やはり集中力を保つのが大変だった。
反省!:事前に資料だけ送ってもらって、目を通しておけばもっと効果的に試奏できた。
オークションのメリット
① 何といっても信じられないくらいの安値!
ほとんどの場合、日本のマーケットの1/3~1/2の価格で落札できる。
② 高価な楽器の選択肢が多い。
日本では一千万円以上する楽器は、楽器店にあまり置いていない。それがオークションだと億単位の楽器まで選択肢が豊富。ストラディバリウスやグァルネリなど超巨匠による楽器も珍しくない!
オークションのデメリット
① 健康状態や属性のチェックが難しい。
これは安い楽器ほど徹底されていないように感じる。看板商品となるような有名制作家の楽器は、信用問題につながるのでオークションハウスも相当慎重にチェックしてプロデュースしている。
例えば今年(2018年)秋のオークションにはグァルネリが出品されていた。世界的に権威のある鑑定家の鑑定がしっかり付いた。また、見た目も美しく申し分ないように見えた。(本物の楽器ってオーラが違うとは言うけれど、本当にすごい…。)
しかし一回のオークションで出品される楽器の総数は150~200。すべての楽器にチェックが行き届いているとは考えにくい。
② 楽器を貸し出してもらえない!
イギリスでは、気に入った楽器は2週間ほど楽器店から貸し出してもらえるのが普通だ。しかしオークションハウスでは、その場で試奏は出来ても貸し出しはムリ。
楽器は色々な曲をたくさん弾かないと、見えてこない部分もある。じっくり慎重に選ぶにはオークションは不向きだ。
しかし、Ingles & Hayday はとても気さくなオークションハウスだったので、何度でも足を運んで試奏することは可能という雰囲気だった。ただし正式な「公開日」 (Viewing Day) は込み合うのでムリだろう。
オークションに対する霧立の意見
オークションおススメ度 | 理由 | ||
大御所作家の楽器 | ◎ | 楽器の状態や属性も安心出来て、楽器店よりずっと安い。 | |
その他の作家の楽器 | △ | 健康状態や属性に不安が残るが、価格の点では◎。 | |
「音だけ良けりゃいい」場合 | 〇 | 鑑定の真偽は問題にならない。試奏だけはしっかりやろう。 | |
子どもの分数楽器 | ◎ | 短期間使用の前提で、高品質の楽器を手にする可能性大。 |
霧立の言う「大御所作家」とは、巨匠はもちろんだが、モダンイタリアンの核となるマスターメイカーや代表的なスクールから輩出された優秀な作家のこと。
また、イタリア以外での国々の代表的な制作家も含む。ある時気が付いたのは、文化と経済の黄金期を築いた国のその時代の作品は往々にして優れているということ。
例えば、オランダ。今でこそあまり存在感のない国だが、17世紀のオランダは「オランダの黄金期」と言われ、軍事、科学、芸術、経済、何においても世界一の国だった。ヴァイオリン制作も例外でなく、一流の巨匠たちが現れた。
実際、霧立が弾いた中で一番優れていた楽器は、Hendrik Jacobsというオランダ17世紀の制作家のものだった。この上なく素晴らしかった。しかし予算オーバーで買えなかったのだ。
「ヴァイオリン=イタリア」と思っている人は、要チェックだ。埋もれている宝を見逃してはならない。
また、霧立は「子ども用の分数ヴァイオリン」とオークションの相性はかなりいいと思っている。どうせ数年しか使わないから、ブランド価値や属性の真偽はどうでもいい(と思っている)。
子どもの分数ヴァイオリンは、どうしても低品質の楽器で済ませがち。しかし、初心者も出来るだけいいヴァイオリンで練習すべきだと個人的に強く思っている。上達度が全然違うからだ。
だから、オークションで量産ではない作りのいいヴァイオリンを見つけられたら、それはビッグチャンス!霧立は、ユウの分数ヴァイオリンはオークションで買おうと実は密かに企んでいる。
ちなみに、今回の霧立の予算では「大御所作家の楽器」は「高値」の華で、かといって「音だけ良けりゃいい」というスタンスでもなかった。結果的にオークションとの相性はあまり良くなく、オークション参加は見送った。
Tips!
*EU以外の国から落札する場合、現地の消費税(20%)は免税!
*日本に楽器を持ち帰る際、楽器にはなんと関税がかからない!(税関に問い合わせ済。)
*後日日本では8%の消費税を収めなくてはならない。
いかがでしたか?
Ingles & Hayday は毎年3月と10月にオークションを開催しています。ストラディバリウスなどの巨匠の作品や、世界中から集められた「掘り出し物」を一般公開日に見に行って試奏するだけでも、相当面白いと思います。
オークションに参加しなくても、色んな楽器を試してみるのは楽器選びをする上で参考になること間違いなし。
でももう楽器を買っちゃった人は、行かない方がいいかもしれません。日本とのあまりの価格の差にショックを受けて寝込んでしまう可能性がありますので…。
また霧立はできうる限り正確に情報を提供しているつもりですが、オークションに参加する場合は、必ずご自分で詳細をよくよくよーくご確認下さい。また、この記事はオークションに参加することをおススメする趣旨の投稿ではありません。万が一、不利益を被った場合でも当サイトは責任を負いかねますので、ご了承くださいませ!
ヴァイオリン弾きの皆様が、「最高のヴァイオリン」に出会えますように!