
2019年8月28日。3年ぶりに開催されたワシントン条約(CITES)の締結国会議で、ローズウッドに関する条項が修正された。これまで必要だった輸出許可書が要らなくなったのだ。
国外に楽器を持ち出すことのある音楽家や、海外で楽器の購入を考えている人にとっては朗報である。
え?そんなの自分と関係ないって?まあ、確かに99.9%の人には関係のない話なのだが、環境問題に関心がある人にとっては、まあ知っておいてもいい事かもしれない。
楽器のどこにローズウッドが使われているの?
ローズウッドって?
「ローズウッドってなんじゃい?」と思っている人がいるだろう。念のために言っておくが、「バラの木」ではない!
日本では「紫檀」(シタン)とも呼ばれいてる。ローズウッドは 重厚でヤニを多く含むため耐虫害性や耐候性があり腐敗せず長持ちすることから、古代から世界各国で家具や仏壇、唐木細工、楽器、ナイフの柄、ビリヤードのキュー、チェスの駒(黒いもの)などに使用されている。
Wikipedia

楽器にはどこに使われているの?
ヴァイオリンなどの弦楽器の場合、楽器本体ではなくアクセサリーのパーツに使われていることがある。

この他にも、ペグ(糸巻)やテールピースがローズウッドの場合もある。また、ギターにも使われている場合がある。
ワシントン条約の変更
変更前
さて、このローズウッド。2016年に開催されたワシントン条約会議で、300種類に及ぶものが輸出禁止の対象になった(発効は2017年1月より)。ローズウッドの伐採が急速に進み、保護の対象とされたからだ。
楽器に使われているローズウッドはごく 少量であり、また新たに伐採された木から作られたものでない場合も多いため、例外的に扱われた。しかし、それでも楽器を持って国外に出る場合は、政府からの輸出許可書が必要になった。別に売るわけでもなく、ただ自分の楽器を運ぶだけで「輸出」という扱いになるのが厄介だ。
変更後
今回(2019年)の変更によって、ローズウッドが使われている楽器やローズウッドのアクセサリーパーツが付いている楽器に関しては、輸出許可書が要らなくなった!
しかし、「絶滅の恐れのある種」(付属書Ⅰ)に指定されているブラジル産のローズウッドは例外。これまで通り輸出には許可書が必要だ。
実は最近、我が家の息子にヴァイオリンを買ったのだが、ローズウッドのアクセサリーが付いているものを買ってしまった!自分のヴァイオリンを買う時はすごく注意していたことなのに、今回はすっかりローズウッドのことは頭から抜け落ちていた。
「ありぁ~、私としたことが!!政府から輸出許可取らないと日本に持って帰れないなぁ…」
と少々面倒に思っていたので、今回のワシントン条約の改定は朗報だった。

そもそもなぜ伐採が進んだのか?
その美しい色から、ローズウッドの家具は中国で高級家具として一大ブームになってしまったのだ。(はい、ここからは楽器に興味のない人でも「へぇ~」となる話デス!)

確かに中国の彫刻は、ローズウッドによく映える。カントリー風のパイン材だったらこうはいかないだろう。
しかし、ローズウッドの高級家具ブームで価格もウナギ上り。最近では美しい彫刻がほどこされたローズウッドのベッドがなんと1億円で売りに出されたという!!中国の中産階級が急速な成長により、2016年のローズウッドの価格は2005年の65倍に膨れ上がった。
結果として、東南アジアの熱帯雨林で大量のローズウドの伐採が進んだ。そして資源が枯渇してきたために、今度は西アフリカ、中央アメリカなど、80か国以上の熱帯雨林がターゲットとなった。
FOREST TRENDSの報告書によると、中国がアフリカから輸入したローズウッドの木材、ローズウッドの家具の輸出量は、2009年から2014年までの5年間で14倍も増えている(下のグラフ参照)。

しかも、悪徳業者はある国で大量伐採をし政府の規制がかかると、すぐに別の国へ行き、同じことを繰り返す。2016年のワシントン条約会議で、ローズウッドが規制対象になったのには、こういった背景があったのだ。
ちなみに、楽器関連の規制として象牙、べっ甲はこれまで通り、輸出許可書が必要である。
いかがでしたか?
それにしても、最近のアマゾンの熱帯雨林の火事といい、乱獲、伐採は人間の強欲が原因になっています。お金のためなら手段を選ばない人間のために、残念ながらこうした規制はこれからもっと必要になってくると思います。
今回のワシントン条約の改定が、ローズウッドの大規模な再伐採につながることはないはずです。楽器に使われているローズウッドはごくごく少量であり、需要も少ないからです。
また、音楽家にとって国を移動するたびに許可書を携帯しなければいけないのは面倒なだけでなく、心理的な負担になっていたと思います。ただでさえ大事な楽器を持って飛行機で移動するのは色々神経質になるものです。プロの演奏家が、空港で大事な楽器を差し押さえられたというニュースも度々聞いてききました。
そんなわけで、今回のワシントン条約改定は、音楽家にとってはちょっと一安心だったはずです。また、 次回のワシントン条約会議(2022年)で、この改定の効果があらためて検証されるそうなので、それは大事なことだと思います。