ヴァイオリンの弓選び、始めてみたが、やはり難しい。
何が難しいって、現在自分が使っている弓に比べて「これはスゴイ!」という程いい弓になかなか出会えていないのである。
ヴァイオリン本体を選んでいた時は、たいがいの楽器が自分の楽器より良かったし、個別に音が全然違うから、単純に「好き・嫌い」で候補を絞り込んでいくのは結構簡単だった。
しかし、弓の場合、同じヴァイオリンで試すので基本的に音色はそこまで変わらない。もちろん、今自分が使っている弓よりいいのは分かる。でも、
「これに£5,000(約75万円)ねぇ…」
と正直考えてしまう。
今日は、フランス、イギリス、ドイツの弓について書いていきたい。
フランス、イギリス、ドイツ製のバイオリンの弓を値段で比較してみた
弓はやっぱりフランスなのか?
「弓はやっぱりフランスなんですかね?」
別々の楽器店の2人のディーラーに聞いてみた。というのも、「ヴァイオリンならイタリア、弓はフランス!」という概念が一般にあるからだ。
ヴァージニア:
音が違う…。弓選び初日だった霧立には、正直まだ「フランスの音」とやらが分からなかった。もうちょっと試したら分かるのかなぁ~?
お次はティム。彼はディーラーでありながら、プロのヴァイオリニストでもある。
ティム:
おっ、これはちょっとした豆知識だな!と思って急いで頭にインプット。
£2,000(30万円)→ドイツ製
£5,000(75万円)→物による
£10,000(150万円)→フランス製
(日本だと大体この3~5割増しの価格になっているような気がする。)
確かに霧立が2軒の楽器店で試した中にフランスの弓も何本かあったが、特に際立っていた印象はない。
因みにそこにあったフランス製の弓はそこまで高価でなく、£4,000(60万円)くらいの価格帯だった。どうりでぱっとしないわけだ。
今後は、もうちょっと上のランクのフランス製の弓を試して、「フランスの音」とやらを体験してみたい。
ドイツの弓はコストパフォーマンスが抜群!
ドイツ人は、几帳面。楽器に限らず、モノづくり長けている人たちだと思う。

「おいらもドイツ産。なかなか優秀だぜ?」
ヴァイオリンでも弓でも、比較的安いものでもかなり音がいい。因みに以前霧立が使っていたヴァイオリンと弓はドイツ製だったが、コストパフォーマンスがとても良かった!
£3,000以下ならAugust Rau(1866-1951)
£5,000~なら、Hermann Richard Pfretzschner(1857 – 1921)
£8,000~なら、Christian Wilhelm Knopf (1767-1837)
という人たちが定評があるようだ。先日Pfretzschnerの弓を試す機会があったが、まずまずの弓だった。
イギリスの弓の御三家は…
イギリスで有名で定評があるのは、James Tubbs (1835-1921)、John Dodd (1572-1839)、そしてW.E. Hill and Sons。
Tubbs
Tubbsは先週弾いてみた。ぱっとする弓がない中、「お、これは違う!」と思えた唯一の弓。音の芯がしっかり出る。ハイポジション(「キーキー」鳴りがちなかなり高い音)でも密度の濃い音が出せる!
「ナルホド~。これがTubbsか…!」
という経験だった。しかし、お値段が£15,000(225万円)だったので、予算オーバー。残念!
Dodd
実はこれも先週弾く機会があった。結構気になったのだが、いかんせん毛が抜け落ちすぎてて状態がベストではなかった。
これじゃあ評価のしようがないので、お店の人に毛替えをお願いして、次回また試してみることに。ちなみにお値段は£8,000(120万円)。
【追記】2019年8月13日
後日、毛替えしたこの弓を試したのだが、全然良くなくて数分で却下。しかーしっ!!この3か月後に霧立はJames Dodd(John Doddの甥)の弓を購入したのだった。おじさんJohnの方が大御所だが、個別の弓の評価は一律ではないことを実感。
Hill
“W.E. Hill and Sons”というのは、イギリス名門のディーラーの名前。特に弓は世界的に定評がある。とにかく腕の良い弓職人を雇って、”W.E.Hill and Sons”のブランドで出している。
ブランド価値を損なわないように、出来の悪い弓は全て破棄しているので、品質管理は徹底されている(イギリスでは珍しい…)。個人工房から出る楽器や弓は、品質の良し悪しにバラツキがあるが、Hillの弓はその点安心できる。
弓職人の名前は刻印されていないことが多いが、それぞれの番号やマーク、特徴から製作者が特定できる。
例えば、霧立が気に入って借りてきたのは、ティムによればおそらくWilliam Johnstonの作品だという。

切り込みが水平になっているのがJohnstonの特徴だとか。
スティックには”W.E. H&S”の刻印が。
気に入った点:
- 弓が弦に吸い付く感じ。
- 音が明るくはっきりしている。
- E線の高音もきれい。
- 響きが豊か。
あんまり好きではない点:
- 見た目!
- そこまでスピカートがやりやすいわけではない。
- “p”の時に音の芯があまり出なくなる。
「見た目」なんて気にしない人は全然気にしないのだが、霧立はちょっとは気にする。なんか、この弓はシンプルすぎる…。あと気になるお値段は、£4,000(60万円)。コスパはいい弓かも。
まとめ
今回は、霧立の予算(£5000~£10,000)の弓があまりなかったのが残念だった。£5,000より上の弓を試すなら、フランスの弓ももっと試してみたい。
あとは、自分の今使っている弓より二回り以上いい弓に出会わなかったら、急いで買わないことにした。これはヴァイオリンを買った時と同じルール。
今回予算オーバーだったが、Tubbsを試せたのはとても良かった。ヴァイオリンの時もそうだったが、「上質なもの」を経験することは楽器選びで実はとても役に立つのだ。
というのは往々にして「よい楽器」というのが普通は感覚的には分からないからだ。値段とか評判は調べれば分かるが、感覚は自分で経験しないと絶対に分からない。
だから、「よい」の感覚をしっかり自分のなかで経験しておくことは、とても大切なのだ。実際手の出る楽器はそれ以下になるが、しっかりした判断基準を持っていれば、混沌とした中で選ばずにすむのである。
買いもしないのに、すごく高価な楽器を試させてくれというのは、ちょっと気が引けるのだが…。でも店主にちゃんと説明すれば分かってもらえるので、おススメです!