ヴァイオリンの弓選びを始めて3か月が経った。しかし、霧立の予算内で「これは買いたい!」と思える弓と出会っていないことで、悶々とした日々を過ごしていた。
ただ一度、「おお、これはスゴイ!」と感じたのは、James Tubbs 製作の弓。音の芯までしっかり出せる弓だった。しかし、お値段は£15,000(約225万円)で予算オーバー。
霧立の予算では満足のいく弓に出会えないってこと?!
そう考えて、妥協した…のではなく、よいものを安く手に入れるチャンスが転がっているオークションという選択肢を真剣に考え出した。
今日は、実際にロンドンのオークションハウスに行って試奏した体験を書いていこうと思う。
良い弓を格安で買いたいなら、オークションもあり!
敷居の低くなったオークション
「オークション」というと、ひと昔はプロのディーラーが参加するもの、というイメージがあった。弦が3本しか張っていないヴァイオリンとか、毛がボロボロになった弓を自分の目で鑑定して指値しなければならない場所であって、素人の行く場所ではない…と。
しかし、最近のオークションハウスは全くそんなイメージからはかけ離れている。
- 事前に出品予定の楽器がオンラインで閲覧できる。
- 気になった楽器についての詳しいコンディションをリクエストできる。
- 世界的に権威のある鑑定書が付いている楽器も多数。
- ほぼ全部試奏できる状態にある。
- 実際に時間をとって試奏できる。
- オークション当日は会場にいなくてもオンラインや電話で指値できる。
など、素人にも問題なく参加できる仕組みになっている。そして、魅力はなんといっても店頭価格より30~50%安い価格で手に入れられるということだ(これは次に紹介するIngles&Haydayの例)。
もちろんリスクはある。プロでないと見つけられないような修理跡や傷を素人は見つけられない。
修理場所や傷によっては、楽器の価値をかなり損なうものがある。しかし、音色には問題がない場合がほとんどだと言われた。
Ingles & Hayday
霧立が今回訪れたのは、Ingles & Haydayというロンドンのオークションハウス。オックスフォード・サーカス駅にほど近い場所にある。
この辺りには楽器屋さんが点在していて、楽器を探している人にはとても便利。ちょっと東京の御茶ノ水みたいな感覚。霧立がヴァイオリンを買ったJP Guivierからも徒歩2分という距離だ。
前回行った時にも対応してくれたRainerという若いお兄さんがこの日もいた。いかにも、「お坊ちゃん」という上品な身なりで、霧立がリクエストしておいた楽器を持って来てくれた後はお茶を飲みながら受付でパソコンをいじっている人。
どうでもいい話だが、この人たちはいい商売しているなあ…といつも思う。世界中から預かった楽器を自分たちが買い取ることなしにオークションにかけて売りさばき、マージンだけもらう仕事。
一回のオークションの売り上げ総額は数億円という世界。スタッフは数人だし。いい楽器に毎日触れるのが仕事なんていいなあ、霧立もスタッフにしてもらいたい…。
オークションハウスで試した弓!
「フランスの弓は音が違う」「£10,000以上ならフランス製でいい弓が多い」という二人のディラーの意見を聞いていたので、よいフランス製の弓を試すのが今回の目的でもあった。
今回霧立が事前にリクエストしておいたのは以下の弓。
- Joseph Arthur Vigneron (£5,000‐7,000)
- Emile Francois Ouchard (£1,800‐2500)
- Victor Fetique (£5,000‐7,000)
- James Tubbs (?)
- Peccatte 工房 (£2,000‐3,000)
制作国は4のJames Tubbsがイギリスで、それ以外はすべてフランス。カッコ内の値段はオークションでの最終予想価格。実際の支払金額は、そこに20%の税金を加えなければならない。
Tubbsの価格が「?」なのは、どういう訳か現在リストから外されており、ウェブ上で閲覧できなくなっているため。(何があったのだろう??)
結論からいうと、3のFetiqueが一番良かった。音がとても華やか。「フランスの音」っていうのはこういう音だったのかぁ!と思った。
そして、芯のある音が出せてつややか。音量も大きく扱いやすい。スピカートなども安定していた。それから試した中で一番状態が良かった。ただ、E線だけすこし雑音がするような気がしたのが唯一のマイナス点。
次に良かったのは、Peccatte工房の弓。Peccatte本人とは特定できてない工房の弓だからどうかな?と思ったが予想以上に素晴らしかった。しかし、状態が今一つだったのと、重さがちょっと霧立には軽すぎた。
2のOuchardは腰が強くなかった。意外だった。それからラッピング部分が、和菓子でも巻いてるのか?と思わせるような深緑色で気になってしまったのでボツ。
1のVigneronは期待していたのだが、霧立にはそこまでインパクトのある弓ではなかった。
最後に出会ってしまったドイツ製のスゴイ弓
Ingles & Haydayではフランス製のFetiqueが第一候補と思えた。明らかに自分が今使っている弓より優れていたのが体験できた。
エディンバラに帰る電車の時刻が迫っていた。しかし、まだ1時間ほど時間があったので、すぐ近くのJP Guiver にも寄ってみた。
このブログの読者の方が最近購入されたという、ドイツ製のNurnbergerという弓を試してみたかったのである。
試してみて…ビックリした。
弦に弓が吸い付く感じ。E線のハイポジションでも透き通る音が出る。ピアノで弾いても音がかすれずに出る。音の芯がしっかり出る。それから弾いていて重心のバランスがとても心地よい…。
それで、気になるお値段は税込みで£3,500(¥52万)という 手頃さ。なんというコストパフォーマンス!!

Franz Albert Nürnberger Junior(1854‐1931) の肖像画。この一族はおそらく世界で一番長い弓製作の歴史を持つ家族と言われている。
たった10分前に試したFetiqueとどちらが優れていたか?というと、残念ながらよく分からなかった。というのも、試奏している部屋が違うからだ。
それに、このNurnbergerを私は50分くらいしか試奏できなかった。聞いて比較してくれる人も今回はいなかった(マナブはユウと一緒に大英博物館へ行ってしまっていた)。
店主のリチャードは「そんなに気に入ったのなら、借りて行ってもいいですよ」と言ってくれたが、もし買わないという判断をした場合、またロンドンまで返しに来なくてはならない。
霧立はEttore Siegaのヴァイオリンを買う時に、何度も決めかねて結局ロンドンまで3回も来るはめになった。長距離の移動が大嫌いな霧立にとって、それはもう悪夢のような経験だった。
あの経験だけは金輪際ごめんだと思って、結局借りて帰らない決断をした。しかし、帰ってからもしばらくの間はNurnbergerの弓のことが頭から離れなかった…。
まとめ
今回はそもそもウィーンフィルのコンサートでロンドンに行ったので、弓選びのためにまとまった時間をとれなかったのが痛恨の極みだった。
しかし、上質なフランス製の弓の中には確かに素晴らしいものがある、ということを今回は体験できた。
また、ノーマークだった£4,000以下の弓でも、ドイツ製のものの中には上質なフランス製に勝るとも劣らないものがあるということを身をもって体験した。
悩んでいたらマナブが「じゃあ、両方買っちゃえば?」と言う!確かに、Fetiqueは日本では300~400万円くらいするのを見たことがある。
それがオークションなら90万円くらいで買える可能性もあるのだ。気に入らなくなったら売ってしまえばいいという考え方だ。
2本買うと150万かあ…。うーん、弓予算としてギリギリのところだ。
オークションは3月19日。入札するかどうか、ただいま真剣に悩み中。
あ、そうそう、Ingles & Haydayは一般人にも利用しやすいオークションハウスなので、ロンドンに行かれる人にはおススメですよ~!