イギリスとアメリカは例えるならば「親戚」みたいなものだろう。しかし、どうしてこんなにも違うんだろうねぇ…と思わずにはいられない。
アメリカとイギリス、両方の国で住んでみて霧立が強烈に感じたことである。日本ではアメリカ文化のほうが身近。だから、アメリカ文化を「欧米文化」とひとくくりにとらえがちだが、実は全然違う。
あまりに違うので、霧立はアメリカ人と話すときとイギリス人と話す時では、「モード」を切り替えるほどだ。親しい友達の間ならまだいいのだが、良く知らない人と話す時はちょっと気をつかう。
今日は、イギリス人とアメリカ人のコミュニケーションの取り方の違いを書いていきたい。
皮肉っぽいイギリス人と直球勝負のアメリカ人
怒らないと勝てないアメリカ、怒ったら負けのイギリス
アメリカ
霧立がアメリカで大学生をやっていた時のことである。休暇中に友人とアラスカ旅行に行くことになっていた。
ところがウキウキしながら当日空港に行くと、「クルーが集まらないので欠便」という表示が…。急いでカウンターに行って次の便に乗せてくれないか、と交渉すると「次の便ももう満席です」とけんもほろろに断られた。
そんなこと言ったって…。
一瞬しゅん…とするも、ここで「ああそうですか」と帰るわけにいかない。
「だって、私たちは何も落ち度ありませんよ?もうホテルも予約しちゃってるし。クルーが集まらないのはそっちの問題ですよね?だったらホテルのキャンセル代とここまで来たタクシー代だって補償して下さいヨ!!」(ビンボー学生)
一緒にいた友人(日本人)と、ワーワーキーキー子猿のように拙い英語でまくしたてた。
そうしたら、カウンターのお姉さん、大きなため息をついて何やらパソコンをいじりだした。
「…じゃ、次の便でお席を用意しましょう」
と言って簡単に二人分の席を取ってくれた。
(はあっ?!さっき「次の便は満席」って言ってなかった?!)
と思いつつ、
「りかちゃん、ほんとアメリカでは怒った者勝ちだね!怒ってよかったね!」
発行してもらったチケットを握りしめながら、ちょっと意味不明なアメリカサバイバル術をまた一つ会得したと喜んだ。
イギリス
これがイギリスだったら絶対にうまくいかなかっただろう。イギリスでは、たとえあなたが正論を言っていても「怒ったら負け」なのだ。
こういう場合、イギリスでは、
「残念なことに、私の飛行機が欠便になっているんですよ。おたくの会社はいつもサービスが良くて信頼してきたので、こんなことは初めてで、ちょっと困っているんですけど…。もう向こうでホテルも予約してしまっているので、次の便に乗せてもらえると本当に大変ありがたいのですが…。」
と落ち着いた口調で丁寧に交渉しなければならない。たいがいの場合、これで何とかなる。
イギリスでは、理性的でいることは相手より優位に立つことであり、交渉を進める上で不可欠なのだ。逆上して怒るのは、粗野な教養のない人間だと思われるのがオチ。
単刀直入なアメリカ人、遠まわしなイギリス人
アメリカ
これは、霧立が一番ラクだと感じるアメリカ人のコミュニケーションである。
- レクチャーを聞いて質疑応答の時間になると、アメリカ人はいきなり問題の核心に触れる。
- オーケストラの練習も、超効率的。無駄なおしゃべりはほとんどない。
- 何か頼むときは、「~してください」「~してくれる?」と率直に頼む。
- 急ぎの時は”ASAP”(As Soon As Possible)という表現をよく使う。
イギリス
えらく遠まわしな言い方をするのがイギリス流。
- 質疑応答の時は、必ず前置きで「講演をありがとうございました。とても興味深かったです」などの礼儀を示す。質問はそれから。
- オーケストラの練習の前に、指揮者が長々と世間話やジョークを言う。その上、途中で「ティータイム休憩」があり、ビスケットとお茶が振る舞われる。霧立は(お茶なんてどうでもいいから、さっさと練習しようよ)と思ってしまう。それを親しい友人にこぼしたら「イギリスのオケでは、社交もとても大事なの」と言われた。
- 何か頼むとき、「あなたは~したいですか?」という表現をとることがある。これにイエスかノーかで答えたらあなたはイギリス英語が分かっていない…。
- 急ぎの依頼でも”When you get a minute”(「時間がある時に~」)と頼む。
この辺のことは、以前こちらの記事に詳しく書いたので、興味のある方はぜひご参考に!
同じフレーズでも全く別の意味!
同じフレーズでも、イギリス人とアメリカ人では別の意味で受け取ることがしばしばある。
“I hear what you say.”
イギリス人:「あなたの意見には賛成出来ない。これ以上その話はしたくない。」
アメリカ人:「あなたの言っている意味は分かる。」
“With a greatest respect”
イギリス人:「あなたの言っていることは全く納得できない」
アメリカ人:「あなたの言っていることは尊重しているよ」
“Sorry, it was my fault.”
イギリス人:「あんたのせいよ!」
アメリカ人:「ごめんなさい、私のせいです」
“What a lovely weather!”
イギリス人:「ひどい天気ね!」(嵐の日にわざと言う。)
アメリカ人:「いい天気だね!」
“Excuse me? Is there anyone sitting here?”
イギリス人:「あなたの荷物どけてくれない?」
アメリカ人:「ここ、誰か席取ってますか?」
“That’s not bad.”
イギリス人:「すごいいいね」
アメリカ人:「あんまり良くないね」
“I might join you later”
イギリス人:「私は多分行かないよ」
アメリカ人:「後で行くかも!」
このようにアメリカ人が割と額面通りなのに対して、イギリス人は皮肉屋なので時には全く正反対の意味で言っていたりする。
イギリス人に褒められ喜んでいるのは、ちょっと素直すぎるかも…。
因みに『ハリー・ポッター』の中でもロンがしょっちゅう口にしている
“Wicked!”
(スゲエ!)
これも本来は「邪悪な」「不快な」というネガティブな意味。ロンはいつも正反対の意味で使っている。
イギリス人とアメリカ人はなぜここまで違うの?
アメリカは建国の由来からして、多文化が根底にある。イギリス人だけでなく、他の国々からも移民が多く新大陸を目指した。
だから、ハッキリとした意思表示が必要だったのではないだろうか?遠まわしな言い方では伝わりにくいし、誤解も生まれやすいからだ。
一方、イギリス人は島国。また礼節を重んじる。そしてそれは喜怒哀楽を隠すことと同義である。だから、反対意見や怒りは直接的には表現せずに「皮肉」(passive-aggressive)という形をとる。
トランプ大統領みたいにズケズケと物を言う人は、絶対にイギリスではリーダーになれなかっただろうな、と思う。
しかし、どちらの文化が好きかどうかは問題ではない。大事なのは、文化の違いを分かっているということだ。文化を理解することは、外国語の文法を学ぶのと全く同じことだ、と私は思っている。
私が住んでいるアメリカ東海岸は、霧立さんが過ごしたアメリカの地域とは人柄が違うのかなと思いました。イギリス人にこの辺の人は近いところがあるのかも。講演で後援者に質問するとき、「とても素晴らしいお話をありがとうございました。」と行ってから質問する人が結構います。他の地域から来たアメリカ人で、「この辺の人フレンドリーじゃない。」「ここの人冷たい。」という人もいます。
アメリカでも”keep in touch”とか”let’s get together sometime”はだいたい社交辞令なので額面通り取らない方がいいかな。この辺の人もwickedは副詞としてよく使うよ。
数年前にあまり英語の得意じゃない患者さんがいて、私が退職するために次のクリにシャンに引き継ぎをしたことがあります。私は患者さんの英語力と病的なものを把握していたから大切なことを直球で患者さんに話していたのだけれど、次のアメリカ人のクリニシャンの方は柔らかくクッションを敷いて表現しようとして、全然患者さんに言いたいことが伝わらないってことがありました。文化も言葉も違ったらやっぱり直球じゃないと伝わらない場合いっぱいありますよね。
柴犬エラ様
なるほど…。
アメリカといえど、あんなに広いのですから一口に語れないわけですよね。
私は確かに西海岸だったので、東海岸とはかなり違うのですね。
東海岸は私の印象だとPoshなイメージがあるのですが、どうでしょうか?
もしかしたら、それでイギリス文化に近いのかもしれませんね。
“Keep in touch””Let’s get together sometime”、アメリカ人でも社交辞令なんですねー。
驚き。
社交辞令ってどんな文化にも程度の差こそあれあると思うんですけど、オランダ人って思ったことを率直に言うとよく聞きます。
だから、イギリス人はドン引き…みたいな!
結構地理的には近いのに、面白いなあと思いました!
それにしても、相手の文化を知らないと、えらい目に合いそうですね。
霧立灯