スコットランドは、その独立を問う住民投票が行われた2014年まで、あまり日本人になじみのない国だったようだ。「スコットランドに引っ越すことになった」と言っても「それは…どこ??」という表情をされることもあった。
「イギリス」といえば、イングランドをイメージする人が多いが、実はスコットランドはイングランドとかなり違う。今日は、スコットランドというイギリスのもう一つの顔について書いていきたい。
「イギリス」という名称が混乱のもと
イギリスの正式名称は、”The United Kingdom of Great Britain and Northern Ireland” (「グレートブリテン及び北アイルランド連合王国」)。な、なんとながい…。
だから、”UK”と略して言うことが多い。そう、イギリスは4つの連合王国なのである。
- イングランド
- ウェールズ
- スコットランド
- 北アイルランド
この4つの王国が一つとなってUKという国家になっている。それなのに日本では「イギリス」と呼ぶので、あたかもイングランドだけのように感じるのだろう。

スコットランドは北部のピンクの部分。
国旗を見れば分かる国の成り立ち
この連合王国の成り立ちは、イギリスの国旗を見ればよく分かる。
イギリスの国旗として知られているユニオンジャックは、それぞれの王国の旗が重ねられたものなのである。

Wikipediaより転用
結構「へえー!!」と感心する話ではないか!しかし、気が付いた読者もいると思うが、ここにウェールズの旗は入っていない。

ウェールズの旗は「赤い竜」。
理由は、ウェールズはユニオンジャックが作られるよりはるか昔(1282年)にイングランドに併合されていたから。
アイデンティティを大事にしているウェールズ人が、「赤い竜」の入ったバージョンを提案したものの現実にはならなかった。これが提案された国旗。

真ん中にウェールズの「赤い竜」を入れたバージョン。いきなりすごい存在感のウェールズ!
そういうことが関係しているのか分からないが、霧立のウェールズ人の友人はウェールズについて話す時にちょっと自虐的。でもウェールズを愛してやまない様子がすごくよく伝わってくる。
本当に同じ国?
対外的にはもちろんUKという一つの国なのだが、法律、教育、医療制度は今でもそれぞれの制度を持っている。
また、それぞれの国の銀行が独自の紙幣を発行しているので、国によって紙幣のデザインまで違う。もちろん、どちらの紙幣でもポンドはポンド。本来なら問題なく使えるはず。
しかし、イングランドでスコットランドの紙幣を使おうとすると、まるでニセ札を警戒しているかのように何度もひっくり返され慎重にチェックされるのはよくあること。(結構イラっとくる。)
「これは、使えません」と突き返された人も過去にいたと聞く。全くヒドイ話だ。
ちなみにイングランドの紙幣をスコットランドで使っても、誰もジロジロチェックしたりしない。イングランドの人にも、もっと広い見識を持ってもらいたいものだ。

Bank of Englandで発行された£20札。エリザベス女王の肖像画付き。

Bank of Scotlandで発行された£20札。イングランドとの間の戦争で活躍したスコットランドの王、ロバートブルースの肖像画付き。
イングランド人はライバル!
4つの連合王国からなるUKだが、スコットランドはイングランドに次ぐ大きな国なので、イングランド人に対してライバル心を持っている。
去年、ロシアで行われたワールドカップの時の話だ。イングランドのチームが勝ち上がっていった時、スコットランド人はイングランドではなく対戦相手の外国チームを応援していた。
スポーツ好きのお隣さんに、「イングランド、勝っているみたいですごいですね!」といったら、ニコリともせずに、
「イングランドは強くなんかない。ジャパンのほうがよっぽどスゴイよ」
と言っていた。気のせいか、語調がちょっと強かったような…。
いや、でもスポーツ観戦になるとスコットランド人がイングランドの対戦相手を応援するのはよくある話なのだ。スコットランド人の前でイングランドチームを応援するのは地雷を踏むようなものである。
また、スコットランドに住むイングランド人の友人は、人から嫌な態度を取られると、「どうせ私はイングランド人だから嫌われているのよ」とよくぼやいている。
イングランド人は、アンディー・マレー(スコットランド出身のテニス選手)が勝つと彼のことを”British”(「イギリス人」)と褒めそやすが、負けると”Scottish”(「スコットランド人」)と表現する、というのは有名なジョークとなっているほどだ。
このようなイングランドとスコットランドの因縁は歴史的なものだ。しばしば戦争をし、スコットランドはイングランドから屈服を強いられてきたから、そう簡単に「一つの国民」となれないのはよく分かる。
スコットランド人はイングランドよりEUが好き!
BREXIT
スコットランド人はイングランド人が好きでないかわりに、EUに好意的だ。EU離脱を問う国民投票があった時も、EU残留派が最も多かったのがスコットランド。
投票結果を色分けすると下のようになる。黄色がEU残留派で、青が離脱派だ。

スコットランドは見事に一面黄色!
イングランド:離脱派53.4% 残留派46.6%
スコットランド:離脱派38% 残留派62%
そもそも「UKから離脱したい!」っていって独立しようとしてたスコットランド。EU残留派が最も多いのも頷ける。
大学の学費
スコットランドの大学の学費は、スコットランド人の場合ナント無料!!そして、次に優遇されているのは、なんと他のイギリス人ではなくEU国籍の学生なのだ。
驚くべき授業料表を見てもらいたい。これはエディンバラ大学、学部生の2019-2020年の授業料だ。
スコットランド/EU | その他UK | EU以外の留学生 | |
年間授業料 | £1,820 | £9,250 | £19,800 |
スコットランド人の学生は、政府がこの£1,820を払ってくれるので実質無料。驚くのは、EUの学生の授業料は「その他UK」(イングランド、ウェールズ、北アイルランド)の学生よりずっと安いということ。
ケンカ売ってんですか!?ってくらいの態度だ。だって、これは例えていえばこんな感じだ。
「関西の大学では、関西地方の学生は無料、アジアからの学生さんは25万円、関東地方の学生さんは150万円ね」
こんなのあり得ない話だ。(もちろん、EUのような枠組みがアジアにはないから、そもそもあり得ない比較だが。)
そして、EU以外の留学生にいたっては、EUの学生の10倍以上…。こちらは「イジメですか?!」てくらい扱いが違う。
このように、スコットランド人はイングランドよりEUに近い立場をとっている。
【追記】
ご存じのように、イギリスは2020年2月1日、EUから離脱した。その結果、EUからの学生の学費も優遇されなくなってしまった。EUの学生は、もれなく「留学生」の高額授業料を払うハメに。しかも、2021年度のエディンバラ大学の学部授業料は、留学生だけ値上げされていて現在£22,000(約330万円)。なぜか、留学生の授業料だけ年々値上げされる…。
*ちなみに、日本の大学は日本人だろうが留学生だろうが学費は同じ。これは世界的に見てもすごく寛容なことだ。
まとめ
こう考えると、「スコットランドってイギリスなの?!」と驚いていた知人のことを笑えなくなってくる。
それに、スコットランド独立をかけて新たに住民投票が行われる可能性が出てきた。BREXITが決まった今「だったらやっぱり独立してEUに残りたい」と考えているスコットランド人は少なからずいるからだ。
スコットランドがイギリスでなくなる日が、もしかしたら本当に来るかもしれない。
次回は、スコットランドの美しいものを紹介したい。
世界不思議発見でしたっけ、新しいことを学んで感心すると、へええ、へええって音が出るボタンを押せるって番組。スコットランドがそこまでイングランドを目の敵にしているなんて知りませんでした。無知な私でもブリテンの中でもいろんな地方柄があるとは知っていましたが、もうここまでくると、違う地方じゃなくて本当に違う国ですね。私の住むアメリカも場所によって全然違うけれど、ブリテンほど分かれていない気が。。。使うお金は一緒だし、大学生だってそこまであからさまに差別されないですよ。へええ、へええっていっぱい押したい気分です。
柴犬エラはいびきかき中さま
(あ、そうなんですか…!)
コメントありがとうございます。
「へええ、へええ」ってボタン押す番組、そういえばありましたね!
いっぱいボタンを押したい気分になっていただけたて、ブロガー冥利に尽きます。
自分にとって当たり前のことでも、スコットランドに住んでない人にとってみれば物珍しい話ですよね。
これからは、もっとスコットランドのことを語っていこう!と気付かされました。
アメリカも州によって大分法律も違いますが、確かにお金は同じですね!
それに、スポーツでアメリカの対戦相手国を応援する州の人なんていませんよね。
アメリカの過去の歴史を考えると、南北の間で感情のもつれみたいのはあるんでしょうか?
霧立灯