生まれて初めて手にした現金
お正月に初めて一時帰国した。親戚一同が集まる楽しい日本のお正月。
そこで、ユウは生まれて初めてかなりの額のお年玉という現金を手にした。気前のいいじいじ、ばあば、それから親戚の伯父さん、伯母さんがたくさんいたのだから、それはすごいことになった…。
これまで1円(1ペンス?)も現金を手にしたことのないユウにとって、けた違いの現ナマが目の前で笑顔で渡されて行く…しかもユウにとって日本のお札は見たこともないようなおとぎの国のマネー。これは夢なのか現実なのか…ポカンとしているユウの姿があった。
(これは、なんとかせねば。)
と思った。ユウはまだ7歳だった。
「とりあえず、大きなお金はお母さんたちが預かるね、ちゃんとユウの銀行口座に入れておいてあげるから。」
ユウの手元に残されたのは3,000円。
それでも多いと思うが、せっかく日本に来ているし、珍しいものや良質な文房具を買いたいだろうしと思って多めに渡してみた。
東急ハンズで文房具を買ったり、イギリスに帰国して本を買っているうちに残金はあれよあれよという間に減っていった。
3月末には残金52ペンス(80円)になっていた。
自分のお金は慎重に使うという経験
初め、私は小学校低学年のうちはお小遣いは必要ない、と考えていた。お金に目がくらんだり、ヘンなものにお金を使ってもらいたくないと漠然と警戒していた。
しかし、今回ユウが何にお金を使うのか、どう使うのかを見ていたら、とても慎重に使っている様子。家族で東急ハンズに行った時も、品物の値段を何十分もかけて比較検討して、「本当に自分はそれが欲しいのか」を考えていた。
これが、親に買ってもらえるという状況だったら、そこまで吟味せずに「これも、あれも」となっていたかもしれない。
それにイギリスに帰って来てからも、「おねだり」をしなくなった。「欲しいなら自分のお金で買ったら?」と言われるからである。そうすると、よーく考えてから決めている。
これはなかなかいい。
残金も寂しくなってきたみたいだし、「おこづかい」始めてみようかなと思った。
霧立家のおこづかいルール
おこづかいは毎月3ポンド
日本円で500円くらい。日本の小学1年生と比べると少し多めだが、本を買いたいユウにとってはこれでも足りないくらいなので、よしとした。
しかしある月、お金が足りなくなって
「あのさ、£2くれる?Next monthのとき、すくなくしていいから。」
と平然と言われたことがあった。前借りのお願いである。7歳から借金生活を覚えたら、どうなる?20年後、カード破産と借金まみれになっているユウの姿が脳裏に浮かんできた…。こりゃいかん!と思って速攻却下。
前借り禁止。
本を買う時は、親が半額支給
ユウは無二の本好き。しかもボックスセットを買いたがる。それじゃあ3ポンドでは全然足りないし、読書は人生の財産になると思っているのでサポートすることにした。
おこづかい帳をつける
「知らないうちにお金がなくなちゃった」というようにならないために。それからお金を管理する上でもこれは大事だと思った。月末に、何に使ったのか、無駄づかいはあったかなど一緒にチェックしている。
何を買うのか親に言う
「あーぁー、そんなものに沢山お金使って…」と思うこともあるが、それは基本的に干渉しないことにしている。後で「買わなければよかったなあ」と後悔する経験も、学びの一環。
しかし、教育上良くないものや甘すぎる食べ物は買ってもらいたくないので、一応事前に知らせるようにした。
人のために使うお金、自分のために使うお金を初めに分ける
お金は自分のためだけでなく、他の人のためにも使うことを覚えて欲しかった。こちらは小学校でもチャリティー募金がしょっちゅうある。動物園のトラの餌代サポート、貧困の子どもたちのため、外国で手術が必要な子どものため…などなど。しかし親から渡されるお金をチャリンと入れるだけでは、チャリティーの心が育たない。
お財布がちょっと痛むな、という感覚を持つことはとても大事だ。あり余り中から捧げるのでなく、自分もその分何か我慢して捧げる。「痛みの共有」である。
人のために使うお金は、初めに取り分けておかないとすぐに使ってなくなってしまう。だからこれはおこづかいをもらったら、初めに取り分ける習慣にする。子どもの金銭教育を啓発しているキッズマネーステーションの話を参考にした。
目安として教えたのは、おこづかいの10%。
ちなみに友達にあげる誕生日プレゼントなどは、親が出す。学校の施設拡充のための募金なども親が出す。
働いてお金を稼ぐ
お金と労働のつながり
おこづかいと同時に始めたのが、「お仕事」。
自分の自由になるお金が出てきたユウに、お金の価値を教えたかった。お金の価値は、労働することによって初めて学ぶことができる。
ある時、「ああ、お金がないなあ」と私が言ったら、
「マッシーンから出せばいいじゃない?」
とユウが言った。
「マッシーン」…ATMのことである。
(ああ、この子はATMに行けば自動的にお金が出てくると思っているんだ!)
とその時思った。
買い物でも私は現金を使うことは滅多にないし、やはりユウにとっては労働と現実のお金のつながりが見えていなかったのである。
具体的な仕事とその対価
みかんの散歩ー10P(15円)
ゴミ出しー5P(8円)
トイレ掃除ー10P
靴磨きー10P/一足
雑草抜きー10P/バケツ一杯
気を付けていること
「お金がもらえなければお手伝いはしたくない」というようになってはいけないと思った。だから、家族は助け合って当然ということを改めて教えた。
例えば、毎晩お皿洗いはみんなでやる。ユウは拭く係り。買い物に行って帰ってきたら、重い荷物をみんなで運ぶ。垣根を刈る時はみんなで働く、というようなことだ。
それから、仕事であれ無償の奉仕であれ、手伝ってくれたことに対してお礼をちゃんと言う。どれだけ助かって嬉しかったか、意識的に伝えるようにしている。
おこづかい制度、始めてみて分かったこと…
おこづかいは、もらったらすぐ使ってしまう子、大事に貯めて滅多に使わない子がいるという。
うちのユウは前者だった!月初に支給されて、もう3日以内に80%使ってしまうという金遣いの荒さ…。
「本当に、本当にまた欲しいの…??」
とお店で確認するのだが、固く頷くユウ。3か月連続で彼がおこづかいのほとんどを費やしてしまったものとは…
サボテン!!

一つ£2.59のサボテン
私は正直サボテンには興味がない。チクチクしていて美しくないと思ってしまう。でも子どもが大枚はたいて買った大好きなものにケチをつけるわけにはいかない。そんなわけで霧立家のダイニングテーブルの横にはサボテンが並んでいる。
まあ、これも本人の自由。悪いものを買っているわけではないので任せている。それにこの間は花を咲かせたサボテンがあって、結構それは面白かった。
あとは、結構気前よく人のためにお金を使っている。10%ではなく、三分の一ほども。ぎょっとしたが、これも止めることではないと思って任せている。ケチよりずっといい。
足りなくなってくると、
「もっとはたらいてmoneyためなきゃ!」
と意欲的になっているのも、なかなかいい。健全な金銭感覚を養うには、失敗も含めて本人が色々経験することだ。そのためにも、小さな金額で練習できるお小遣いと労働はとてもいい教育の機会だと思う。