私の新しいパートナー:モダン・イタリアンヴァイオリンのSiega
Ettore Siega氏との出会い
大好きな人がいたのに、周りに勧められていやいやロンドンまで「お見合い」に行って出会ってしまったのが、このEttore Siega。イタリアン・ガイである。
で、そんな奴と結婚することにしたの?!霧立サイテー。
ちょっと待って!これはヴァイオリンの話です…。
ロンドンの老舗、JP. Guivierで初めてSiegaを弾いた時の印象は強烈だった。
部屋がひっくり返ったように感じた。
2月の一番寒い季節だったのにも関わらず、弾いただけで部屋の温度が一気に変わった。春になった感じがした…。
「初恋」で盲目的になっていた霧立でさえ、その圧倒的な卓越性は無視できなかったほどだ。
-ヴァイオリンを買う時は、自分の持っている楽器よりも二回り以上よい楽器を選ぶように-
簡単に言えば、
「なんじゃこりゃ!?」
というレベルの楽器を選ぶ、というアドバイスはいつも霧立の頭の中にあった。「なかなかいい楽器だな」くらいでは、すぐにその楽器に飽き足らなくなってしまうからだ。
そして、Ettore Siegaは霧立にとって正にこの、「なんじゃこりゃ!?」級のヴァイオリンだったのだ。
初恋に見切りをつけた夜
しかし、初恋のMatthew Hardieがいたものだから、そんな劇的な体験をしてもすぐには決心出来なかった。
とりあえずSiegaを借りて帰った。3週間、毎日Matthew HardieとEttore Siegaをとっかえひっかえして弾いた。
いろんな人に聞いてもらった。Matthew Hardieには新しい駒と魂柱を作ってもらって調整もした。でも、決断ができないまま貸出の期限が来てしまって、とりあえずロンドンまでもう一度行ってSiegaを返却した。
普通、そうしたらHardieを買うと思うだろう。いくらイギリス国内といえど、ロンドンとスコットランドはそんなに気軽に移動できる距離ではないからだ。電車で5時間くらいかかるしお金もかかる。
悩んで悩んで、苦しんで、結局、私はSiegaを選ぶことにした。Siegaの音がどうしても忘れられなかった。そう決めた夜、私は悲しくて泣いたほどだった。Matthew Hardieが、それほど好きだった。
初恋に見切りをつけた夜だった。
しかし、買う決心をして翌朝ロンドンのお店に電話をしたら
「残念ながら今、他の人に貸し出しています。その人は随分お気に召した様子だったから、もしかしたらお買いになるかもしれませんね…。」
と言われ、目の前が真っ暗に。
(やっとケッコンしようと決意したのに、他の人に取られてしまうかも…!!!)
しかし、その数時間後、その人がSiegaを買わないとの判断をしたとお店から電話が入り、電話口で歓声をあげてしまった霧立である。
そんなわけで、みんなも呆れるすったもんだの末、Siegaを引き取りに、また一人でロンドンへ向かった。もう三度目だった。
後日、Siegaを買って弾きこむうちに、更に30%くらい音質が向上した。響きがよくなって驚いた。ヴァイオリンとは不思議なものである。
ヴァイオリン選びは「魔法の杖」選び
運命的な出会い
「じゃ、次、これ試してみますか?」
と店主が霧立にヴァイオリンを渡す。
……..(試し弾きしてみる。)……..
「うーん、ちょっと違いますネ。」
と霧立。
「フーム…。じゃ、これなんてどうでしょう?」
(再び試し弾き。)
「うーん、うーん…。ピンとこないです…。」
こんなやり取りを店主としていて、
「ヴァイオリン選びって、『ハリーポッター』の杖選びみたいですよね?!」
と言われて大笑いしたことがある。
ハリーはオリバンダーの店で自分の杖を手に取った時、突然手の中が温かく感じられ、杖を振り下ろすと花火のようなスパークが空中に躍り出た。
確かに初めてSiegaを弾いた時、ヴァイオリンから火花こそ出なかったが、衝撃的な体験をした。部屋の温度が一瞬にして上がる感覚だった。
杖が魔法使いを選ぶ
また、『ハリーポッター』の中で「杖が魔法使いを選ぶ」とも言われている。なんだか神妙な話である。しかし実は、ヴァイオリンでも心当たりがあった。
Siegaを買うかどうかで迷っていた時、色々な友達の家を訪ねて聴き比べをしてもらった。またヴァイオリンが弾ける友人たちには、霧立が聞くために、いつも弾いてもらった。
そうすると、ヴァイオリンの音が変わるのである。ある時、友人が
「このヴァイオリン、すごいわねー!いいわ~。」
と気に入って、Siegaをしばらく弾いていた。その後、私が弾こうとしたら、響きが変わっていたのである。明らかに鳴らなくなっていた。
10分ほどまた私が弾くと、響きは元に戻った。以前、友人のレーナがこう言っていたことを思い出した。
「誰かが自分の楽器を弾いた後はすぐ分かる。楽器が変わっているのよ。」
まさに、そんな感じだった。
魔法の杖が魔法使いを選ぶように、ヴァイオリンも弾く者を選ぶのかもしれない…。ヴァイオリンとは、本当に不思議な楽器である。
ヴァイオリンはパートナー
真剣に選んだ楽器は、弾く者にとってまさに「パートナー」という存在である。
以前、量産品のヴァイオリンを弾いていた時はあまり感じなかったことだ。その楽器は、同じ門下生の知人から譲ってもらったもので、他の楽器と弾き比べもせずに自分の物となった。
しかし、今回真剣に悩みぬいて買ったヴァイオリンは、存在感が全然違う。いつの間にか、霧立は自分のヴァイオリンを指して話すときに、”He”とか”him”という代名詞を使っていることに気が付いた。
ヴァイオリン弾きの友人たちにも聞いてみた。そうしたら、自分の楽器に思い入れがある人はほとんど、自分と反対の性の代名詞を楽器に対して使っていた!
そして、なんと自分のチェロに名前まで付けている人を発見!
Joshua Romanー彼ははアメリカ人のプロのチェリストだ。
(チェロって、あんなに大きいし、声も低くて太いのに、「オンナの人」なんですかネ…?)
と一瞬思ったのだが、彼には何の疑いもないらしい。そして、そのチェロの名前は「ミッジ」(Midge)。
彼女は背が高くてほっそりしてる。そしてパワフルでスィートな音なんだ。
と自身のブログで書いている。その下には一輪のバラを口にくわえ、リラックスした姿勢で「ミッジさん」を奏でているる彼の写真まである…。
こりゃすごい…。
しかも、その名前をファイナライズするのに何週間もかかったというから、尋常ではない。本当に「ミッジさん」が好きなんだろうな…というのが伝わってくる。
このように、ヴァイオリンやチェロなどの弦楽器は、弾く者にとって「かけがえのないパートナー」なのである。
手工芸品の良質なヴァイオリンは、独特のオーラがある。一切機械を使わずに手仕事で作ったヴァイオリンは、製作者の魂が詰まっているような気がする。
機嫌が悪いのか、あまり鳴ってくれない日もある。そういう日は
「どうしたの?ねえ?」
と心の中で語りかけている自分がいる。
ヴァイオリンを弾かない人からしたらちょっと気持ち悪い話かもしれない。犬好きでない人が犬に話しかけている飼い主を見て「ヤバい」と思うのに似ているか?いや、もっと変かも…。
とにもかくにも、「パートナー」と認識するようになってから、以前よりも楽器の音にずっと耳を傾けるようになった。どうしたらもっと鳴ってくれるか?日々、試行錯誤である。
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