よくある近所の騒音問題
近所の騒音問題は、よほど隣家が離れたところにある田舎でない限り、古今東西どこにでもある問題だろう。
深夜まで続く大音量の音楽やテレビ、早朝の洗濯機や子どもの遊びまわる音はよく聞く騒音問題だ。今回は霧立がイギリスで遭遇したちょっと変わった騒音問題と、その解決法について書いてみたい。
イギリスの近所の騒音問題
日本ではあまり耳にしない騒音問題として、DIY(”Do It Yourself”=「日曜大工」)がある。イギリス人は家の修繕のDIYを頻繁に行っている。家が古いから、あちこちで修理が必要になるのだ。深夜早朝のDIYは騒音問題の一つである。
また、イギリスで騒音問題としてしばしばあげられるのが「パーティー騒音」である。特に若者が多く住む街中だと、週末ごとに近所のどこかしらでパーティーがあることも珍しくない。
大音量で音楽を流し、歌って踊って、陽気に笑うイギリス人のパーティー。彼らは元気なのである。仕事に疲れ切ってしまい、週末は休養に充てる忙しい多くの日本人とは違う。
若者だけじゃなかったイギリス人のパーティー
霧立一家が住んでいるのは街の中心からは少し離れているので、引退世代も暮らす普段は静かエリアだ。しかし、それでも年に数回は近所のパーティー騒音に悩まされる。
先週末も大々的なパーティーがあった。始まったのは夜の7時頃。うちの窓は二重ガラスになっているので、外の音はあまり聞こえないのだが、どこかで人が叫んでいる声がする。
庭のドアを開けてみると、大音量の音楽が部屋に流れ込んできた。夏休みの最後に学生が騒いでいるのか。やれやれ、仕方ないかと思ってお風呂に入った。
霧立はお風呂で本を読むのが好きで、その日はこともあろうに茨木のり子さんの詩集を読んでいた。ところが、酔っぱらったパーティー客の音程の外れたバラードがBGMでは、全く詩の鑑賞どころではない。すぐに諦めた。
夜11時。外は大分寒いはずなのに、パーティー客のテンションはまだまだ衰えるところを知らない。若い人は元気なものだと、ここまで来ると一体いつになったら電池が切れるのか興味深くなってきた。
11時半頃、マナブがみかん(老犬)を連れて偵察に行ってきた。偵察報告によると、
「まるでクラブのようだった…。」
とのこと。騒音源はうちから5.6軒離れた家で、庭に大きな白いテントを張って、ご丁寧に大きなスピーカーまで出してやっているという。雨対策までするとは、すごい肝煎りだ。
そして家の前に「50」と書かれた風船が飾られていたとのこと。これには一番驚いた。風船に書かれている数字は誕生日の年齢を示す。つまり「50歳の誕生パーティー」だったのだ!
あんなすごいパーティーをするのはせいぜい20代までと思っていた。まさかいい大人がそんなことをするとは考えもしなかった。しかし、そう言われれば、お風呂で聞いた歌は確かにちょっと時代遅れな感じだったような…。
50歳だったら、子どもはティーンエイジャーか成人しているかもしれない。とても子どもに社会性を教えられたものじゃない。
とにもかくにも、この国では大人でも誕生日を祝ってパーティーする習慣があるということを忘れていた。
忍耐のイギリス人
近所でうるさいパーティーがある度に、イギリス人の忍耐には驚かされていた。いつも誰かが警察に通報するだろう、と期待して待っているのが警察など来たためしがない。
でも、みんな迷惑しているに決まっている。その夜も、同じように騒音源を確かめるためにカーテンを開けて外を見回している近所の人と目が合った。
アメリカ人だったら、とっくに怒鳴りこんでいるかもしれない。
オーストラリア人だったら、一緒にパーティーに参加しちゃうかもしれない。
日本人だったら、きっと警察に通報する。
そして、イギリス人は…耐え忍ぶのである。
イギリス人は人との対立を出来るだけ回避しようとする。日本人も割と似ているが、公権力に頼ろうとする。我々はこの点忍耐深くない。
イギリスでは集合住宅に住む人が多い。霧立一家が住むのもそうだ。家が古い分、上下階の生活音は日本のマンションよりずっと漏れやすい。おのずと、互いに我慢しないと近所づきあいが成り立たないようになっている。
また、イギリス人はやっぱり礼儀正しいのだ。ハッキリものを言うアメリカ人とはだいぶ違う。しかし、毎週末のパーティーとなれば、いくら忍耐のイギリス人でも黙っているわけにはいかない。
イギリス流解決法
住宅専門のコンサルタントのページを見てみると、次のようなアドバイスがあった。
直接話してみる
これはあまりに芸のない解決法と思えるかもしれないが、1/3の騒音問題がこれですぐに解決している。
解決率、33%。
ふーん、これは高いのか低いのか、よく分からない。しかし、「問題を起こしている多くの人たちは、自分たちの騒音がどれほど他の人に迷惑になっているのか全く気が付いていないだけ」とのこと。
When?
これが最重要。
- パーティーのどんちゃん騒ぎの最中に話しても、相手は酔っぱらっているので逆効果。
- 後日、公の場で話す。
- 後日、庭のフェンス越しに話す。
なるほど。相手の家の玄関をノックしてわざわざ苦情を言いに行くのは、それだけで気まずい雰囲気を作り出すというわけだ。それより、スーパーやバス停、ゴミ出しの機会などにさりげなくアプローチするのがいいというわけだ。
しかし、隣人と偶然遭遇するのはいつになるのか分からないから、やはりここは忍耐のイギリス人のなせる業かもしれない。
How?
- 対立姿勢ではなく、穏やかで理性的な口調で話す。これによってあなたは有利な立場をキープできる。
- 騒音被害にあった3件の事例を時間帯を提示して話す。そしてそれがどう迷惑だったか非難口調ではなく伝える。
- あなたの要望を明確に伝える。例えば「夜10時以降はドラムの練習をしないで欲しい」「次に大きなパーティーをやる場合は事前に言って欲しい」など。
ポイントは、穏やかに理性的に、非難するのではなく解決に向けて相手に協力を促す、というところだ。イギリスではどれだけ相手が理不尽でも「怒ったら負け」なのだ。逆に言えば、怒らずに冷静にいられれば、あなたが有利な立場をキープ出来るのだ。
それでも問題が解決しない場合は、自治体や警察への通報を促している。しかし、それによって隣人との関係にヒビが入ることは覚悟しなければならないと書いている。
対話の成功率は33%でも「まずは対話を」と勧めるのは、そういう理由があったのだ。
まとめ
「50歳のバースデーパーティー」があった翌日、近所の友人に「昨日のパーティー、うるさかったけど大丈夫だった?」とたずねた。
友人は、「あれは酷かったね~。朝二階から彼らの庭を見たけど、めちゃくちゃだったよ!」と笑いながら言う。
「イギリス人はよく黙っているね」と言うと、「まあそうしょっちゅうあることじゃないしね。毎週末だったらなんとかしなきゃいけないけど、まあ我慢するよ。今度は僕たちもみんなでパーティーやっちゃおうか!?」と冗談交じりに言う。
彼の家のほうがもっと騒音源に近かったというのに、この寛容さ。(最も彼は稀に見る人格者なのだが。)
近所の騒音問題は、イライラが募って爆発しかねない。今回、イギリス人の忍耐強さとイギリス流解決法を知って、近所づきあいのノウハウを少し学ぶことが出来た。
我慢しているのは自分だけじゃないんだなあ、と知るだけでも大分違う。確かに一晩だけだったし。それに騒音問題に限らず、あらゆる対人関係の問題解決において穏やかさと理性をもって対話することは重要だと改めて思った。
また、近所の人とは普段からよい関係づくりをしておくことも大事だと思わされた。同じ騒音でも、赤の他人と好意のある人が出す音では、受け取る印象が違うというもの。初めて話す時が苦情を申し入れる時だった、というのでは問題解決のハードルも高くなる。
霧立家は音楽一家なだけに、いつもヒヤヒヤだ。とりあえず、もっと積極的に近所の人と仲良くしておこう!と思わされた。
いかがでしたか?
誰でも近所の人に苦情を言うのはためらわれますよね。でも、まずは正攻法の「対話」で、良好な関係を保ちつつ問題を解決できるといいですね。
お互い、良好な近所づきあいが出来ますように!