突然だが、あなたは下の女性がどちらの方向に回っているように見えるだろうか?

もし時計回りだとしたら、あなたは右脳のほうが左脳より優位であるということになる。左利きの傾向である。
反時計回りだとしたら、左脳が優位、つまり右利きの傾向がある。両方に見える場合は、両方の脳が拮抗しているタイプである。
霧立は、どう頑張っても時計周りにしか見えないのだが、実生活では右利きだ。母親が左利きだったからその遺伝か、幼い頃からヴァイオリンを弾いているから(左指を使う)右脳が発達したのか?理由はよく分からない。
我が家のユウ(8歳男児)は左利きだ。霧立の亡き母の影響だろう。
「ああ、これはおばあちゃんから確実に受け継いだものだね…」と思っている。いわば「忘れ形見」のようなもの、だから、矯正など考えたこともない。
イギリスでは、「左手の矯正」というのは話題にも上らないせいか、日本より左利きが多いように感じる。先日、ユウのテニスレッスンを見ていて気付いたのだが、9人中なんと4人が左利きだったのである!ほぼ、半数…。これにはビックリした。
改めて日本語で検索をしてみると、いまだに「子どもの左利きを矯正させるべきか?」というトピックが結構あって文化の違いを目の当たりにした。
今日は、
- 左利きの脳の特徴
- 矯正がもたらす影響
- 右利き中心の社会
について考えてみたい。
左利きの矯正は個性の否定
左利きの人は右利きの人より才能豊か?
「左利きの人に天才が多い」というのはたまに聞く。
左利きの有名人
- レオナルドダヴィンチ(アーティスト)
- ミケランジェロ(アーティスト)
- チャーリーチャップリン(俳優)
- ロバートデニーロ(俳優)
- モーツァルト(作曲家)
- ベートーベン(作曲家)
- グレングールド(奇人天才ピアニスト)
- アインシュタイン(科学者)
- ジュリアスシーザー(政治家)
- バラクオバマ(アメリカ大統領)
- 中村俊輔(サッカー選手)
- 伊達公子(テニス選手)
- 綿矢りさ(作家)
枚挙にいとまがないので、この辺でやめにする。もちろん右利きの著名人はもっとたくさんいるだろう。
脳の違い
私たちの脳は、右脳と左脳に分かれている。私たちは常に両方の脳を使って情報処理をしているのだが、右脳と左脳はそれぞれに「得意分野」がある。
【左脳の得意分野】
- 言語
- 論理的思考
- 分析
- 数字
【右脳の得意分野】
- 芸術
- 創造性
- 音楽
- 立体的な空間把握
- 包括的な思考
- ひらめき
- 洞察
左利きの人は右脳が刺激されより活発になるのに対して、右利きの人は左脳が強くなる。先ほど「左利きの有名人」をリストアップしたが、確かに芸術家や俳優と比べると、言語能力が要な小説家の数はぐっと少なかった。
どうりでユウが英語を問題なく話せるようになるまで、5年もかかったはずだ…。
実は数学は左利きが有利!
「数字に関しては、左脳のほうが優位」と考えられいる。しかし、実際に数学のテストをすると、左利きの人のほうが高得点を取るというデータが色々なところで出ている。
簡単な問題では有意な差は出なかったそうだ。しかし、難易度の高い問題においては明らかに左利きの生徒(特に中学高校の男子生徒)が高得点をマークしたという。
ちなみに、常に右手しか使わない生徒は、時々左手も使う生徒よりも得点が低かった。
数学は高度な問題になると、結構ひらめきが重要だったりする。単なる「数字」だけなら左脳だが、高度な数学の問題になると「ひらめき」や「創造性」、「立体的な空間把握能力」の領域が活発な右脳が強みになるのではないだろうか?
また、右脳と左脳をつないでいる「脳りょう」は、左利きの人の方が大きい。つまり、左利きの人の方が左右の脳の連絡経路が充実しているため、総合的な情報処理能力が高まる傾向にあるという。
でもなぜ左利きの人の方が能りょうが大きいのか?それは、右利き用に設計されている社会で生活する中で、左利きの人は両手を使う機会が多いからでは?とも言われている。
ちなみにユウのクラスには、彼を含めて左利きが2人いるが、2人とも成績別の算数のグループはトップグループ(5人)に入れられている。これは単なる偶然ではないかもしれない。
なぜ右利きに矯正しようとするのか?
こうして考えると、「左利きってすごい!」と思うのが自然な気がする。なぜ、日本ではいまだに左利きの子どもを右利きに矯正しようとする親がいるのか?
多く見られる理由は次のようなものだ。
- 「右利きのほうが字がきれいに書ける」
- 「お箸は右で持たないと隣の人と肘が当たって困る」
- 「多くの道具は右手用に作られているので、左利きだと不便」
しかし、霧立にはどれもよく分からない。
【1の反論】
まず、縦書きの日本語の場合、右利きのほうがむしろ手が汚くなる。逆に英語の場合、左利きだと書いた所が左手で隠れてしまうので、とても書きずらいし、ノートも手もインクで汚くなる。しかし、現代の欧米で左利きを矯正することは皆無といっていい。
それに、右利きでも字が汚い人はたくさんいるではないか!また、利き手でない右手で書かされることによって余計字を上手に書けなくなる場合もあるそうだ。
【2の反論】
それは右利きの人中心の考え方。左利きの人にしたら、「あんさんの右ひじが邪魔なんだけど」ということになる。
それに、これは座席の順番をちょっと工夫するだけで解決する。
【3の反論】
確かに自動販売機や自動改札、ドアのノブなど、世の中は右利き中心に設計されているものが多い。しかし、最近は左利きようのハサミや道具も出てきている。
我が家のユウはたいして困っている様子もない。聞いてみるとドアのノブなどは、たまに右手で開けることもあるそうだ。
このように両手を使う機会が右利きの人より多いので、能りょうが発達して知的にも有利になるのだとしたら、あながち悪いことではない。
また、どうしても不便なものがあれば、それは「モノ」を変えればいい。なぜ「人間」が「モノ」に合わせるために、生まれながらの性質を変えなくてはならないのか?
右利きに矯正することの悪影響
左利きを右利きに変えるのは、単にペンを右で持つようにするという物理的な変更ではない。それは脳や精神の矯正に他ならないのだ。
脳は簡単にシフト出来ない。そのため、利き手を変えるのは相当なストレスとなるようだ。これについてはこのサイトを参考にした。
吃音
利き手の矯正は幼児期の早い時期に行われることが多いが、それは言語習得の時期と重なるので吃音などの問題に発展しやすいという。利き手矯正と吃音の関係を否定する研究もあるが、色々な体験談を読んでいると、やはり関係しているのでは?思ってしまう。
イギリス国王、ジョージ六世は左利きの矯正が原因で吃音になったと言われている。国王としてのスピーチに苦しんだ。吃音を克服するまでの様子が映画になっている。実話だけに迫るものがあった。
集中力の低下
あなたがもし右利きだったら、左で文字を書かされたり、お箸を持たされたらどうだろう?かなりのプレッシャーと苦痛があるのではないだろうか?勉強どころではないはずだ。
精神不安定・自己肯定感の低下
これは、もっとも深刻かもしれない。生まれ持った性質を否定されているようなものだからだ。
そのため、精神的に不安定になりやすく爪を噛んだり、おねしょ、人前での緊張という症状が出ることがある。
まとめ
左利きの人は全体の10~13%いるという。学校でいえば1クラスに平均3、4人いることになる。これは決して少ない数ではない。
右利きは確かにマジョリティーだ。しかし、マジョリティーのためにデザインされた社会に合わせるために、左利きの人が右手に矯正するのはストレスが多すぎる。
自動改札の一番左端は左利き用にする、自動販売機のコイン入れを中央付近にする、お玉の注ぎ口を両側に付ける、などといったことは簡単なはずだ。
左利きの人は、豊かな才能を秘めていることが多い。マイノリティーの人たちが自分の生まれ持った特性を、矯正することなく伸ばしていかれる社会こそ豊かな社会だ、と霧立は思う。