霧立の住んでいるスコットランドは、ハリス・ツィードが生まれた国。
普段からツィードのジャケットをさりげなく着こなしている人は多い。友人のデイビッドは、大のツィート好き。99%の確率でいつもツィードジャケットを着ている。
先日、カフェでばったり会ったので一緒にお茶をしながらハリス・ツィードについてちょっと質問したら、出てくる出てくる!こんなに熱弁ふるうデイビッドは見たことがない、というほどハリス・ツィードの魅力を語ってくれた。
今日は生粋のスコットランド人が教えてくれた、
- ハリス・ツィードの魅力
- ハリス・ツィードの歴史
について書いてみたい。
生粋のスコットランド人にハリス・ツィードの魅力を聞いてみた!
ハリス・ツィードとは?

“THE OUTER HEBRIDES”(「アウター・ヘブリディーズ」)というのは、スコットランド西岸の島々。ハリス島のその一つ。
霧立:「ハリス・ツィードのマークのついたジャケットとかコートを見かけるけど、あれはブランドなの?」
David:「ハリス・ツィードは、ハリス島で昔から手織りされてきた生地のブランドだよ。ハリス・ツィードの生地を使って、いろんなメーカーがいろんなデザインで製品を作ってるんだ。」
霧立:「えっ?!じゃあ、ハリス・ツィードのジャケットのデザインといっても、お店によって違うってこと?」
David:「そうだよ!布地の厚さもロットが違えば若干違うんだよ。」
霧立は根本からすっかり誤解していた。
例えば、バーバリーだったら、バーバリー社が様々なファブリック(布地)を調達してきてデザインし、縫製して製品にする。つまり、素材の調達先は言ってみれば変わりうる。デザインこそがバーバリーをバーバリーたらしめている。
しかしハリス・ツィードの場合、ファブリックこそが唯一のブランド。しかし、どんな製品にでもあのタグを貼っていいわけではない。
スイングタグは製品に HARRIS TWEED 生地が 50% より多く含まれている場合に使用できます。
しかし、日本では例えばバッグのポケットだけにしかハリス・ツィードの生地を使っていないのに、「ハリス・ツイード」として売ってしまっている商品も出回っているそうだ。安価な商品は要注意ということかもしれない。
ちなみに「ハリス島」とは、スコットランド西北にある「地の果て」みたいなところだ。写真だけ見ると、まるで美しい熱帯のビーチだが、水は真夏でも冷たく刺すようなのでとても泳げない。

HEBRIDEAN HOPSCOTCH HOLIDAYSより転用。 一見南国の島だが、真夏でも最高気温が13℃のハリス島。
ハリス・ツィードはどうやって生まれたの?
霧立:「ハリス・ツィードのジャケットは、カジュアルに着れるのは分かってるんだけどフォーマルでも着れるの?」
David:「いや、フォーマルでは着ないよ。あれはあくまでカジュアル着。ツィードはそもそもハンティング、狩猟で使うために作られたんだよ。あの色使いはカモフラージュのためなんだ。ハンターが背景と同化するためのね。」
霧立:「へえぇ!なるほど、だからベージュが基調で、草色の緑とかが入っているものが多いのね。…でもさ、グレーとか、赤っぽいのもあるじゃない?あれは何で?」
David:「地域によって、岩が多い地域もある。そういうところではグレーがその地域のツィードカラーになるんだよ。ヒース(イギリス特有の草原植物)の色は地域によって変わるからね。紫や赤のヒースもあるでしょ?だから、それぞれの地域によって違う色のツィードが生まれたんだよ。昔の農家は冬はやることがなかったから、冬は家の中でツィードを作っていたんだよ。」

紫色のヒースが広がるスコットランドのある地域。エディンバラ周辺でもよく見られるカラー。
これも、全然知らなかったことだった。スコットランドの人が昔からハンティングのために、地域のヒース色のツィードを作っていたというのは、とてもノスタルジックな感じ。
デイビッドの話を聞いていて、遠い昔のスコットランドの人々の生活に思いを馳せた。
自然と暮らしがまだ密着していた時代に生まれた、美しい布地。美しい色の組み合わせは、実は自然界にある。野鳥の羽の色を見ていると、その絶妙な色の組み合わせに感心するが、ツィードもしかり。
人間がまだ自然に近かった頃に生まれたツィード。昔からツィードは大好きだったが、その歴史も私の価値観にとてもしっくりすることに今回気付いた。
ツィードの魅力
霧立:「いやー、ビックリ。ツィードの歴史を知ってますますツィードが好きになったよ!」
David:「ツィードは最高だよ!夏は涼しくて、冬はあったかいんだ。それに、丈夫に出来ているから何十年でももつんだよ。マナブのツィードのジャケットをユウに譲り渡すことだって出来るよ。」
「マナブ」というのは霧立の夫で、「ユウ」は我が家の息子(8歳)である。
最近は、薄っぺらいポリエステルの洋服が大量に出回っている。すぐに色が褪せそうだし、合成化繊は着心地も良くない。
現代のライフスタイルは大量消費、大量廃棄。大事にすれば何十年でも着続けられるツィードは、上質な物が持つ魅力たっぷりだ。
スコットランド人の誇り
霧立:「私もいつか、素敵なツィードのジャケット買いたいなぁ…。サラ(デイビッドの妻)が素敵なツィードのジャケット持ってるよね。ベージュのやつ。」
David:「うん。好きだっていうから買ってあげたんだよ(ちょっと自慢げ)。サラもね、ツィード好きなんだけどね…でも、俺から言わせればね、まだツィードに対する愛が足りないんだよ!」
「愛」ですか…。
これには霧立恐れ入った。
デイビッドの苗字は”MacLeod”(マックラウド)。これは、典型的なスコットランド人の苗字。しかも、彼の先祖が生み出した独自のツィードまであるとのこと。
どうりでツィードを語りだしたら止まらないわけだ。ちなみに「愛の足りない」サラはイングランド人。
スコットランド人にとって、ツィードは自分たちのルーツやアイデンティティでもある。だからこそ、時代を超えて上質なものを作り続けたいという強い思いがあるのだろう。
デイビッドからしてみたら霧立のツィード好きも甘っちょろいものだろう。でも、いつか自分の好きなツィードのジャケットを買うのが夢だ。