「弓を替えると驚くほど音が変わる」というのは本当だ。
わたくし霧立灯は、3か月前に弓を買い替えた。3か月経って思うのは、最近自分のボーイング(弓の奏法)が変わったということ。変えようと意識したわけではないから不思議なことだ。
以前使っていたのはドイツ製の弓。かなり弾きやすく、弓のグレードアップをしようと色々試した時も高価な弓にあまり引けをとらないだけに、「自分の弓より二回り以上よい弓」を探すのが大変だったくらいだ。
それなのに、最近昔の弓を使うと弾きづらくてたまらない。以前は何も問題を感じなかった弓なのに、今では「この弓はダメだわ」とさえ思うようになった。
一体なぜだろう?
それは、弓選びの難しさを示していると思う。弓の良し悪しを知るのは、時間がかかるのだ。ヴァイオリンと違って、扱いに慣れるまでに時間がかかる。
だからこそ、弓の買い物は大変だ。知識と経験がないと、「本当に自分にとっていい弓」を見つけられないかもしれない。
今日は、霧立が5か月以上、30本の弓を試す中で培った「弓選び」の知識と経験を全てお分かちしようと思う。
上質のバイオリンの弓を買うために必要な知識と経験
弓の基本
あなたが初めて弓を買うことになったら、きっと戸惑うことがたくさんあるだろう。「ヴァイオリンと同じで古い方がいいのか?」「重さはどれくらいのものがいいのか?」「よく言われているコシが強いってナニ?!」などなど。
弓はヴァイオリン本体と違って「古い方が優れている」わけではない。もちろん、トルテ(「弓のストラディヴァリ」の異名を持つフランス人製作者)の弓は古いが、それは使われている木の年代というより作りが優れているからだろう。
しかし、マーケットでは年代物のフレンチボウはやはり高い。「古い」=「良い」という価値観がなぜかやはりここにも浸透している。
生産国とブランド価値
「弓ならやっぱりフレンチボウがいいの?」
少し弓について調べると、多くの人はこのような疑問を持つことだろう。しかし、イタリアで作られたヴァイオリンが全て優れているわけではないのと同様に、全てのフレンチボウが優れているわけではない。
安いフレンチボウは全然良くない!また、高くてもそこまで感心しないものもある。フレンチボウはブランド価値が高いために、実力以上に値段が高騰しているのが現状だ。
それでも、中には他には見られないような素晴らしいフレンチボウがあるのも確か。それを探し出すには、忍耐してじっくり多くの弓を試すことと、「ホンモノを見抜く力」が必要とされる。
海外オークションという選択肢
霧立は、なかなか予算内でパッとする弓が見つからなかった。冒頭にも書いたように、自分が使っていたドイツ製の弓がなかなか良かった(と思っていた)からである。
「どうせ買うなら今使っているのより二回り以上よい楽器(弓)」というのは、霧立にとってゴールデンルールだった。
そこで考えたのが、オークション。オークションといっても「ヤフオク」などのネットオークションではないのでご心配なく。
世界中のプロのバイヤーたちが集まる、格式の高いオークションである。しかし、最近のオークションは、事前に試奏も出来るし、楽器の状態に関する情報や鑑定書までついてくるものまである。
一般人にも参加しやすく、店頭価格よりずっと安くよい楽器を手に入れるチャンスがあるのだ。しかも、海外から買い付ける場合、税金が免税となるという大きなオマケつき!
霧立も実はロンドンのオークションに参加した!…が競り負けて、落とせなかったオールド・フレンチボウがあった。
最終的には他人の基準で選んではダメ

私の愛する楽器。Ettore Siega(ヴァイオリン)とJames Dodd(弓)。
一般的な「よい弓」の基準は確かにある。これまでの記事を読んで頂ければ、健康状態がよく、実力のある弓をある程度見分けることが出来ると思う。
しかし、弓選びはそれだけでは不十分なのだ。
弓は、あなたの使っているヴァイオリンに合わないとだめ。あなたのボーイング奏法に合ったものでは二とダメ。あなたの体形に合ったものでないとダメ。
そして、私が最後になって気が付いた大事なポイントは、「自分の課題や自分の楽器の問題点をクリアしてくれる弓」という点だ。
こういうことは、弓だけ見ていても分かってこない。自分の音楽と、楽器とよく向き合って初めて見えてくること。
大変だけど、絶対面白い。そして、弓選びを通して、あなたは絶対もっと音楽的に成長出来るようになる。
「楽器をグレードアップすると上手くなる」というのは、単に楽器そのものの良さのせいもあるけれど、楽器選びを通して音に対してかぜん敏感になるからではないか?と霧立は思っている。
いかがでしたか?
弓選びはヴァイオリン選び以上に難しいと思います。だからこそ、納得のいくものに出会うまでじっくり時間をかけてください。
「良い弓の基準」は感覚的なことも多いので、すぐには分からないこともあると思います。私にとっても「音が立つ」とか「芯のある音」という表現がピンとくるまでに、ある程度時間がかかりました。
でも、そうやって耳を肥やしていくんです。楽器選びをしているもうその時から、音楽の上達が始まっているんです。なんかもう、ワクワクしてきますよね!
そして、ヴァイオリンや弓を買ってからは、もっと成長出来ます。みなさんが、音楽のよい「パートナー」に出会えますように、心から願っています。