ヴァイオリンの弓を探し出して5か月目。30本ほど弓を試してきて、ようやく納得のいく弓に巡り合った。
「弓選びのポイント」をこれまで私も書いてきたし、他のサイトでも参考になるようなことは書かれている。しかし、今回真剣に悩んで最終判断が迫られた時、私は弓選びで一番重要なことに気が付いたような気がした。
今日は、わたくし霧立灯が文字通り心血を注いで弓選びをした過程で気が付いた「弓選びで大切な一番最後のポイント」について書いていきたい。
最後に気付いたバイオリンの弓選びの極意
曲を弾くことの意味
弓を選ぶ時、「初めは大きなボーイングで弾いてみましょう」「まずは簡単なスケールを弾いてみましょう」というアドバイスをよく耳にする。弓が楽器から引き出す純粋な音色、ボリュームを確かめるには重要なことだ。
また、次にスタカート、スピカート、早いパッセージなどを弾いてみる。これも弓の性能を知る上で大事なプロセスだろう。発音が悪い(空気感の多い)弓だと、早いパッセージはモゾモゾ言っているだけで、一つ一つの音の輪郭がはっきりしないことが判明するはずだ。
でも、曲全体を弾く中でもっと分かってくることがある。それは、どれだけ表現力に優れているか?ということだ。
この「表現力」というのは、弓が自動的に生み出してくれる豊かな表現力ではない。そんな魔法みたいな弓があったら誰でも一流演奏家になれる。
まずは、「表現したいこと」「それを表現する技術」が演奏者に備わっているのが大前提。表現力のある弓は、そのようなものを十二分に引き出してくれる、というわけだ。

音階を弾くのと、モーツァルトを弾く時ではボーイングは全然違うはず。
「レスポンスの良い弓」というのは、演奏者が「やりたいこと」に瞬時に反応してくれる弓だと言っていいだろう。車で言うと、フェラーリみたいな感じか?(*想像上の表現です。フェラーリなんて運転したことないあるわけないデショー!)
そのためには、自分のとても得意な曲を弾くのがおススメ。色々な表現が混ざっている曲がよい。暗譜で弾けて、滅多に間違えない曲を用意しておくことは、楽器や弓選びでとても重要である。
霧立は試奏になるといつも必ず弾く曲(バッハの無伴奏)があるが、恥ずかしがることはない。別に人に聴かせるためのコンサートではないのだから。
いつも同じ曲を弾いているから、「あれ、今回はいつもより上手に弾いた」「やりたいことが存分に引き出せた」という感覚がはっきり分かるのだ。
自分の奏法に合った弓を選ぶ
純粋な音色を知りたい時は、他の人に弾いてもらうのは貴重な機会だ。自分が出している音を耳元で聞くのと、遠くから聞くのではかなり音の聞こえ方が違うからだ。
楽器を買うにしろ、弓を買うにしろ、誰かに弾いてもらって音色を客観的に聞くのは絶対にやったほうがいい。
しかし、弓の場合は奏法が人によって違うから、自分の奏法に合った弓を選ぶのが重要。簡単に言えば、「自分が上手に弾ける弓」のことだ。
例えば、いつも楽器選びを手伝ってくれるベッサニーと2本の弓を比べ合っていた時のことだ。彼女が弾くとAの弓の方がいい音がするのに、私が弾くとBの方が上手に弾ける、という体験をした。
自分が一番上手に弾ける弓を選ぶために、最後は人にたくさん聞き比べてもらおう。
楽器や自分の弱点を克服してくれる弓
あなたの楽器や現在の弓に足りない部分、またはあなたの奏法の弱点を克服してくれる弓を探そう。もちろん、それは多くの場合ひとつではないだろう。
でも、一番克服したいと願っていることは何だろうか?それを満たしてくれる、あるいは助けてくれる弓を選ぶ、というのは案外知られていないポイントだ。

あなたの楽器に足りないのは何?「欠点を補う」という思考は、ある意味、メイクやヘアカットみたいなものだ。
私のヴァイオリン、Siegaは温かみのある深い音がする。逆に言うと、華やかさには少々欠ける。また私は人前で弾くと緊張してしまって、弓がプルプル震えてしまうのが悩み。つまり、
- もう少し華やかさが欲しい。
- 緊張しても震えが伝わりにくい弓が欲しい。
というのがポイントとなった。弓に求める要素はたくさんあるだろうが、「譲れないポイント」を整理しておくと、最終判断の助けになることがある。
まとめ
弓は、
① 楽器のポテンシャルや演奏者の音楽性を最大限に引き出す道具であり、
② 演奏者の演奏スタイルにマッチすることが重要。また、
③ 楽器や演奏者の「弱さ」を補ってくれる道具でもある。
一般的に①についてはよく知られているが、②や特に③についてはあまり知られていないのではないだろうか?
「よい弓の特徴」は普遍的なことだが、②や③については十人十色。弓を選ぶことは、楽器を選ぶ以上に自分の音楽性や、自分に不足している問題に目を向けることになるはずだ。
だからこそ、弓選びは楽器を選ぶ以上に難しいのかもしれない。
ブランドや生産国に目を向けるのではなく、自分の楽器や自分自身の抱えている課題に向き合うこと。それこそが弓選びで実は一番大事なことなんじゃないか…と最後になって私は気づいた。
いかがでしたか?
次回は、霧立がどんな弓を試して、どんな弓を購入したのか?といったことを具体的に書きたいと思います。お見逃しなく!