イギリスに住んでいるイタリア人は、外食でパスタをまず頼まないという。なぜなら、この国で彼らが満足するパスタに出会える確率は、スコットランドで晴天が3日間続く確率と同じくらい低いからだ。
霧立一家も、実はパスタには少々うるさい。夫・マナブは、パスタを粉から作ってしまうほどのこだわりよう。でも、イタリア人と違うのは、それでも外食の時にパスタを懲りずに注文してしまうことだ。
しかし最近ついに、「これじゃあ期待しても無駄だったわけだ…」と悟る体験をした。
「茹でてとどめを刺す!」がイギリス流
「イギリスのパスタは、どうしてそんなにマズイの?」という人のために、少々説明を。
実はパスタソースは、結構いけるのである。問題は、パスタの茹で具合。パスタが、アルデンテでないのだ。完全に茹ですぎ!
イギリス人は、昔からとにかくなんでも茹で茹でにするのが得意なのだ。野菜などは、「これでもかっ!」と野菜の最後の息の根を止めるがごとく、茹で茹でにする。

イギリスの「伝統的な」ブロッコリーの茹で方は、茹でて、茹でて、また茹でて、とうとう穂先の部分がボロボロに崩壊するくらい茹でるのだ。お皿に盛られたブロッコリーの、茎(?)の部分と、穂先の部分が完全に分離しているのを見て、目が点になった経験がある。
小学校に通う息子(ユウ)の給食で出てくるブロッコリーも、やはり茹で茹でだそう。ユウは、穂先と茎が分離したブロッコリーを、
“Winter tree”
つまり、「(落葉した)冬の木」と形容しているほどだ…。
(もちろん、野菜を茹ですぎないイギリス人もいる。しかし「硬めに茹でて歯ごたえを楽しむ」という人はかなり少ない、というのが霧立の印象。)
さて、話をパスタに戻そう。すべてにおいてこんな具合だから、パスタがアルデンテに仕上がるわけがないのである。パスタはいつだって、フニャフニャ。歯ごたえなどあったものではない。
「アルデンテ」をリクエストしてみたら…?
「そうは言っても、リクエストすればアルデンテで出てくるのではないか?」と私たちは考えた。そこで、外食でパスタを頼む度に、注文を取りに来たウエイターにお願いするのである。
「あのう…。パスタをアルデンテにして欲しいんですが。」
しかし、「アルデンテ」という概念がないので、「アルデンテ」と言っても分からないのである。たいがいの店員は’Al dente’という外国語に謎めいた表情になる。そこで、私たちは「アルデンテ」という表現を避けて、別の言い方にした。
「パスタを、茹ですぎにしないでもらえますか?」
そうすると、店員さんはいつもニッコリ笑って、「OK!」「シェフに伝えておきます」という。私たちは、「さあ!今日こそアルデンテのおいしいパスタにありつけるのではないか?!」と期待するのだが…。期待はいつも裏切られ、パスタは茹で茹でのまま。
どう頼んでも、絶対パスタがアルデンテにならない理由
ある時私たちは、「もっと具体的に頼まないとダメなんじゃない?」ということに気が付いた。そこで、先日 イタリアンレストランに行ったとき、こうリクエストしてみた。
「パスタの茹で時間を、通常より2,3分短くしてもらえますか?
茹ですぎのパスタは好きじゃないので」
そうしたら、ウェイターが、なんとこんなことを言ったのである。
なるほど…。でも、それは難しいですねぇ。パスタは、朝一番にその日の分を全部茹でちゃうんですよ。お客さんがたくさん入ってしまうと、いちいち注文のたびに茹でていられませんからねー。
パスタを、朝一番に茹でて置いておく?!

霧立家に震撼が走った。注文を受けてから茹でるのではなかったのだ。どうりで何度頼んでも、パスタがアルデンテで出てこないはずだ…。
このウェイターは、英語の発音からイギリス人ではないと分かった。あけっぴろげで正直なお国柄の人だったのだろう。イギリス人なら、おそらく明かさないだろうと思われる「裏事情」を、あっけらかんと客に話してしまったのである。
多分、これまでのイギリス人のウェイターやウェイトレスは、まさか「あらかじめパスタは茹でてストックされている」とは言わずに、「OK!」でかわしていたのだろう。
アルデンテは「生茹で」
一般的なイギリス人にとっては、「茹でる」とは「硬いものを柔らかくする」に他ならないようである。パスタの麺の中心に適度な芯を保っているアルデンテなどは、彼らにとっては「生茹で」でしかないのだ。
実際、以前友達に「パスタのアルデンテが好き」と言ったら、
” ‘Al dente’? Do you mean uncooked pasta?”
(「『アルデンテ』?生茹でのパスタのこと?」)
と聞かれたことがある。
多くのイギリス人にとってアルデンテは「生茹で」であり、それは好ましくない状態なのである。
どうしてもアルデンテパスタが欲しかったら、それなりのレストランに入らないと難しそうだ。先日の「パスタをあらかじめ茹で置きしておく」といったイタリアンレストランは、カジュアルレストランだが、そこまで安くもない。コース料理を注文したわけでもなく、単品のパスタ3人分、デザート2人分、コーヒー2つで£50以上(約8000円)だった。

注文を受けてから、パスタを茹でてくれるレストラン…。霧立家にはちょっと敷居が高そうだが、イギリスでおいしいパスタが食べたい方は、どうぞご参考までに。
世界中を仕事で、休暇で飛び回るうちの義姉。レストランではパスタを頼まないらしいです。アメリカでも。実はイギリスで嫌な思をしたのでしょうか?
その日の分のパスタを朝のうちに茹でておくって、前代未聞です!生パスタを提供しているところは、そんな手抜きしないのでは。。。?生パスタってほんの1分くらいで茹で上がりますよね?そういうところは敷居が高いのかな?
茹でて茹でてとどめを刺すイギリス人。どおりでイギリス料理がまずいと言われるわけですね。
エラはヴィーガンから程遠しさま
コメントありがとうございます。
確かに生パスタだったらすぐ茹で上がりますね。
でも、コストが嵩むからやりたくないのかなあ…と思いました。
それにイギリス人は、たぶん、あの茹で茹でパスタで満足しているのだと思います。
イギリス人の料理は、最近はこれでもずっと改善したんですよ。
私が初めて来た20年以上前は、コーヒーも薄くて、食事も今よりずっとひどかったんです。
でも、最近はかなり美味しいレストランも結構あるなあと思っています。
パスタ以外ですが!
イタリアのレストランは、どこに入っても最高に美味しかったです。
湯で具合も超アルデンテ!
ピザも、ほかの国とは別格でした。
霧立灯