
「(日本の学校で)授業中によく『静かにぃー!』って言う子がいるんだヨ。I don’t like it, it’s very rude.」
本帰国して、日本の小学校に行き始めたばかりの我が家の9歳児、ユウが不満げにこう言った。
「えっ?『静かにして』ってイギリスでは言っちゃいけないの?」
「うん、”Shh!”(『シーっ!』もダメだよ」。
わたくし霧立は、英語圏でそれなりに長く生活してきていたのに、そんなことは初耳だった。
「シーっ!」は、高圧的で失礼
霧立:「えー、じゃあ授業中にうるさい時はどうするの?」
ユウ:「先生は子どもに『シーっ』と言ってもいいの。でも、友達に向かって『シーっ!』っていうのはrude(失礼)だから言っちゃいけないって言われた。それに”Be quiet”っていうのは、すごい失礼だから先生っだって言わないよ」
確かに、”Be quiet.” はなんとなく直接的だし高圧的な感じがするので、霧立も人に言ったことはない(はず…冷汗)。でも「シーっ!」(”Shh!”)は…?

分からん…。でも、多分使ったことあるような気が…。だって、アメリカの大学にいた時は、先生が話し始めたのにまだ周りがざわついていたりすると、よくみんな人差し指を口元に当てて、”Shhh!”と言っていた記憶があったよ?
ええー…私、イギリスで多分 “Shhh!” って言ったことある…。
ガーン…。
(時すでに遅し)
テニスの試合でも
そう考えると、思い当たることが次々出てきた。ATPのテニスの試合などでは、選手がサーブをする時には静かにしないといけないんだけど、前のプレーの興奮がまだ冷めやらぬという感じの時、審判は観客にこう言う。
“Thank you! Thank you!”
「ご静粛にお願いいたします」ということなのだが、直訳すれば「ありがとうございます!ありがとうございます!」となる。なんとも珍妙な働きかけだ。
日本の英語の授業では、”Please”さえつけりゃ「丁寧なお願い」になると教えられているが、それはとても危険である。”Be quiet” はあまりに非礼すぎるので、いくら”Please”を付けたところで、全然丁寧にはならない。こんなのは「使ってはならない表現」として教えた方がよっぽど良さそうだ。
大きな会場などで、
“Thank you! Thank you!”
と司会者や教師が言ったなら、それはお礼を言われているわけではなく「静かにしろ!」ということだと覚えておこう。
なぜ、「静かにして」や「シーっ!」が失礼にあたるのか?

日本の学校では、子どもが他のうるさい子どもに向かって「静かにして!」とか、ヒドイ場合は「うるさい!」と言うことが日常的。だから霧立にとっては、なぜユウがそこまで気分を害したのか(しかも彼が言われたわけではないのに)、正直分からなかった。
色々調べてみると、” Be quiet” や “Shh!” は、それを言った人がこの場を支配しており、他の人に対するリスペクトを欠いていることを意味するからだ、とのこと。「『シーっ!』と言われたら、顔をひっぱたかれた気分がする」という人までいる(知れば知るほど、冷や汗が出てくる霧立だ)。
“Shh!” を言ってもいいのは、
・親が小さな子どもに対して。
・先生が生徒に対して(でも大学生にはNGかも)。
・うるさい犬などに対して。
だという。日本では、子どもがテレビを見てるときに、親に「シーっ!」などと言ったりしそうだが、イギリスでそんなことを言ったら、子どもはとても叱られる。
他の言い方は?
では、周りの人に静かにしてもらいたい場合はどうすればいいのか?
“Excuse me, I am trying to listen.”
とか
“I am so sorry, but I’m having trouble hearing, do you mind chatting at a lower volume?”
とか
“Maybe we should be a little quieter, we might be disturbing people.”
などと、言うのだそう。決して相手を非難する調子ではなく、丁寧に共感をこめて言うことがポイントだとか。
確かに “Shhh!” や “Be quiet.” は、ピシャリと相手を断罪するようなもの。うるさい方が問題のはずが、イギリスでは反対に注意した方が無礼者と受け取られてしまうのだ。
もう一つの方法
しかし、イギリスにはうるさい人に対する対処法がもう一つある。それは…、
我慢する、という方法。
実は、これの方が多いのでは?と思うほど、イギリス人は我慢する。アメリカ人は結構すぐに思ったことをストレートに言うと思うのだが、イギリス人は違う。
たとえば、霧立の家の近所で、夏になると夜中まで庭でパーティーでどんちゃん騒ぎをしている人たちがいるのだが、ご近所さんはみんな我慢。
また、庭で大音量で音楽をかけながら遊ぶティーンエイジャーもいる。ご近所さんたちは、イライラした様子で窓越しにうるさい音源の方角を見やるが、誰も苦情を言わないで我慢していた。
夫・マナブはうるさいのが我慢のならないたちなので、「ちょっと言ってくる」といって、ご近所のティーンエイジャーに時々注意しに行っていた。
もちろん彼は丁寧に言ったはずだし、その子たちはボリュームを下げてくれたけれど、今考えたら「すっごい失礼なアジア人の隣人」と思われていた可能性大である…。
いかがでしたか?
日本では失礼に当たらないことでも、国が違えばこんなにも受け取られ方が違うのか!と驚きますよね。学校の英語の授業じゃ、こんなこと教えてもらいません。
私なんて、何年も暮らしていても気が付かなかったことです。多分、失礼なこといっぱい言っていただろうなーと背筋が寒くなるわけです。これから英国に留学したり駐在で行く方々はぜひ霧立の失敗から学んでください。
あ、それから他の人が話している最中に口を挟むのもマナー違反です!イギリスでは幼稚園の時から、人の話が終わるまで辛抱強く待つことを教えられます。とにかく、話を中断させられるのが人権侵害級なのがイギリスなのかもしれません…。