
先日、イギリスでは子どもが初めて携帯を持つ平均年齢が7.5才だという記事を書いた。
アメリカでは、多少遅くて10.3才。しかし、IT王国・シリコンバレーのエリートたちの家庭では、驚くほど携帯やスマホに厳しい制限を設けていることが知られている。
「『クラスのみんなが持っている』って子どもにせがまれたら、どうしようもない。」と諦めている人。なぜ、ディバイスを開発しているトップの家庭で厳しい方針を貫いているのか、立ち止まって考えて欲しい。
ゲイツやジョブズ、ITエリートたちの教育方針

ビル・ゲイツはマイクロソフトの、スティーブ・ジョブズはアップルの創業者の一人である。億万長者の彼らの家庭なら、子どもにチョコレートをあげる感覚で、最新のスマホやiPadが与えられているんだろう…と思うかもしれない。
ところがどっこい!彼らは、普通の家庭以上にIT機器についての制限が厳しかったのだった。彼らの子どもたちは14才になるまで、携帯は持たせてもらえなかった。中学生になって、クラスで携帯を持ってないのは、ビル・ゲイツやスティーブ・ジョブズの子どもだけ…というわけだ。
しかし、これは多くのシリコンバレーのITエリートの家庭方針にも共通していることらしい。これは、2018年3月の”The Times“からの引用抜粋だ(拙訳)。
メリンダ・ゲイツ(ビルの妻)の子どもたちはスマートフォーンを持っておらず、キッチンにあるパソコンを使うだけだ。彼女の夫・ビルは他の社員がホームページのアップデートをしている傍ら、自分はオフィスで何時間も本を読んでいる。シリコンバレーで一番人気の私立高、Waldorf Schoolでは、11才以下の生徒の電子機器使用を禁止し、eBay、アップル、ウーバーやグーグル世代の子どもたちに、ゴーカートの作り方、編み物、料理などを教えている。マーク・ザッカーバーグ(Facecbookの創業者)は、娘たちに「メッセンジャーキッズ」を使うよりも、『ドクター・スース』を読み、外で遊んでもらいたいと言っている。スティーブ・ジョブズは、家庭でのテクノジーの使用を厳しく制限している。ハイテク産業で成功している人ほど、家族をその影響から守っているように見えるのは、なんとも不思議なことである。
なぜITエリートたちはスマホを警戒するのか?
作ったからこそ知っている
それは、テクノロジーの怖さを一番良く知っているからだ。一般家庭の親たちも、テクノロジーの利便性にもれなく付いてくる弊害を知っている。
しかし、実際にその製造開発にたずさわっている人たちは、テクノロジーが脳や精神に及ぼす悪影響を、きっと誰よりもよく知っているのだろう。
一見、「自分たちで作っておきながら、そりゃないでしょう。無責任な!」と言いたくなる。しかし、たぶん、そもそも彼らは小さな子どもが使うことを想定してしなかったのだと、霧立は思う。
スマホの弊害

もちろん、テクノロジーは絶対悪ではない。子どもの安全を把握したり、ちょっとした調べものには圧倒的に便利。しかし、シリコンバレーのエリートたちがここまで子どものスマホやiPad使用に厳しい制限をかけるほどの悪影響とは何だろう?
イギリスの子どもたちが初めてソーシャルメディアアカウントを作る平均年齢は、11.4才。そして、子どもたちのスマホの用途は、SNSを通じてのコミュニケーションが一番多い。
しかし、SNSの利用が増えると13才の子どもの場合、鬱になる確率が27%上がると言われている(2017年8月Business Insider)。スポーツ活動や他のコミュニティーに身を置いておる子どもたちは、そのリスクがずっと低い。
また、10代の子どものスマホ使用時間は、鬱と自殺件数に関係していると言われている。1日に5時間以上をオンラインに費やす子どもは、1時間以下の子どもと比べて自殺リスクが71%も上昇する。
ソーシャルメディアを使う時間が増えるにつれ、かえって孤独に陥りやすく、精神的に病みやすくなるというのは皮肉な話である。
霧立の友人で、子どもを東京のインターナショナルスクールに通わせている人がいる。経済的に裕福な家庭が多い中、友人はシングルマザーで経済的にも時間的にも余裕がない。
週末は、都内の高級レストランに行った投稿。夏休みともなると、海外のリゾートからの投稿ばかりがインスタのフィードに流れてくるんだって。うちの子だけ、変わり映えのないマンションでの日常を投稿してて辛くなるって嘆いていたわ…。
現実世界では、友人にはたわいもないことを話したり、辛いことなども打ち明ける。しかし、インスタグラムなどのオンラインの世界は、どうしても「見栄えのすること」だけを切り取った非現実的な世界になりがちだ。
また、友達と遊んだ時の楽しそうな写真が投稿されていたりすると、声をかけてもらえなかった子どもは傷つく。スマホやSNSがなかった時代なら、知ることもなかったような不要な情報だ。

少数の仲の良しグループだけで閉じられていた会話が、SNSではコミュニティー全体に一瞬にして広まる。昔なら陰で言っていた悪口も、オンラインに出回る時代になってしまった。そして、それは一瞬限りの音声と違って、繰り返し閲覧される。
10代というのは、人生で一番友達とのつながりを強く求める時期。広く浅くしか人とつながれないソーシャルメディアは、子どもの孤独や精神的不安を増す原因になってしまっているのだ。
また、メンタル以外にも
- 睡眠時間の減少
- 睡眠の質の低下
- 集中力の低下
- 学力の低下
- 読書離れ
などの問題が挙げられている。
ゲイツやジョブズの家庭に学ぶITルール
「そんなこと言ったって、現実にスマホを高校生まで与えないなんてムリ!」と思う読者はいるだろう。霧立も、今はユウ(9才)がクラスで「唯一携帯を持ってない子」であろうと、持たせる気はさらさらないが、いつかは与える日がくる。
家庭によって「いつ」の判断は分かれるところ。しかし弊害を最小限に抑えるためには知恵が必要だ。
ゲイツやジョブズなどのシリコンバレーのビッグネームたちの家庭で実際に実践されているルールは次の通り。
- 携帯は最低でも14才までは与えない
- 家庭での食事中のディバイスは使用禁止
- 就寝前のかなり早い時間帯からディバイス試用を制限
- 週日のスクリーンタイム(スマホやiPad、テレビ)を厳しく制限(小さな子供の場合、ゼロの場合も)
- どのSNSの使用を許可するか、慎重に選ぶ
- 寝室へのディバイスを持ち込み禁止
シリコンバレー・エリート家庭、 結構キビシイ…。 でも、テクノロジーの開発をリードしている当人だからこそ、私たち以上にその弊害を知っているのだ。
その声に、真摯に耳を傾ける価値はあるのではないだろうか?