「あなたは数学や科学が好きですか?」と聞かれたら、おそらく多くの人が口ごもるだろう。
大学の理数系学部に進む人は一部。まして女子の割合は極端に低い。わたくし霧立灯も高校2年生の時に、数学が必修でなくなり「これで年貢を納めたぞ~」という気分になったものだ。
しかしイギリスでは、女性の医師(GP)や会計士は男性の数を上回る。また、イギリスで子育てをしていると、数学や科学が子どもの身近にある、ということに気付く。
学校の教室で勉強していることの延長線上にある、壮大な世界に触れる機会が日常の中にあるのだ。数学や科学はイギリスの子どもたちに人気である。
今日は、なぜ日本人が「数学や科学が苦手」と感じているのか?ということについて考えてみたい。
子どもが「数学や科学が苦手」にならないために出来ること
楽しい科学が日常にあるイギリス
エディンバラ・サイエンスフェスティバル
霧立が住むエディンバラでは、一年を通じて色々なフェスティバルが開催されている。子どもたちの学校がイースター休みとなる春には、サイエンス・フェスティバルが街のあちこちで開かれる。
おもに3歳から小学生高学年までを対象にしいたイベントが多い。中学生以上には、ディスカッション形式のイベントが用意されている。
昨日、我が家のユウ(8歳)が自分で選んだイベントに行ってきた。「シェルスピンスキーのギャスケットをカオスゲームで再現する」というのがテーマの数学のイベント。
「シェル…*%$!@?…のギャスケットってナニ??」
脳内で「バスケット」をイメージし、一瞬思考がフリーズした霧立だったが、ユウはおかまいなしという感じで話を聞いている。先入観のない子どもはすごいネ…。

スコットランド国立博物館がこの日のお目当てのイベント会場だった。
大人にとっても高度すぎる内容なのだが、エディンバラ大学の学生が子ども一人一人に分かりやすく教えてくれるのだ。もちろん、中間の難しい数式などはすっとばしているが、その神秘的とさえ言える数学の奥義を垣間見せてくれた。
その他にも、4D体験、免疫システムなどについて1時間以上も知的好奇心を刺激される体験学習をしてきた。会場は春休み中の親子であふれていた。
期間中はこういったイベントが200種類以上(!)開催されており、そのほとんどが無料!さすがにこれだけバラエティーに富んでいれば、必ず子どもの興味のあるイベントが見つかりそうだ。

Edinburgh Science Festivalのプログラムが載っている冊子。日付別に開催されているイベントが載っている。
学校の教室で勉強していることの延長線上にある、壮大なスケールの数学や科学の世界。「勉強」という感覚ではなく、知的な遊びの一環として体験できるこのような環境は本当に素晴らしい。
数学や科学の本
イギリスには、数学や科学の本がたくさんある。これは、問題集などとは全く違う本である。
ユウがゲラゲラ笑いながら何か読んでいると思ったら、“Murderous Maths”という子供向けの数学の本だった。
抽象的な数学の論理が、イラスト付きの面白いお話の中で説明されている。
霧立は子ども時代にこんなに楽しく数学や科学を勉強した覚えがないので、環境の違いに驚かされる。ユウはゲラゲラ笑いながら平方根(√)を独学してしまったようだ。
日本では、受験向けの問題集なら山ほど売られているが、こういった本は少ない。しかし、イギリスでも大人気の“The Number Devil” という数学の本は日本語にも翻訳されていた!
「数学(算数)が苦手!」という子ども向けに書かれた本。数学の楽しさを体験できる本として日本のレビューでも評判は上々だ。
PISAでは高得点なのに「数学・科学嫌い」の多い日本
得点の高い日本
ここまで書くと、「イギリスの子どもは楽しく数学や科学を学べて、さぞかしよい教育なんだろう!」と読者は思われるかもしれない。
ところがどっこい、国際学習到達度調査(PISA)の結果を見ると日本の方がはるかに成績が良いのである!
【2016年のPISAの結果】
1位シンガポール 2位日本 3位台湾…15位イギリス
- 解釈を要する設問、自由記述形式の設問(数学・算数)
- 科学的な解釈や論述形式の設問(科学)
- 日常生活と関連の深い設問(科学)
計算したり、公式に当てはめて答えを出すような問題は、諸外国と比べて日本の子どもは得点が高い。しかし、解釈が必要な設問や、論述式の設問は苦手なのだ。
また注目したいのは、科学において「日常生活と関連の深い設問」が苦手ということだ。まさに、イギリスの子どもたちが身近に与えられていて、日本の子どもにはなかなか与えられていない環境が影響している、と思った。
数学・算数が嫌いな日本の子ども
PISAでは、それぞれの科目への興味や関心も調査されている。
【数学への興味・関心】 (%)
数学についての本を読むのが好きである | 数学の授業が楽しみである | 数学の勉強をしているのは楽しいからである | 数学で学ぶ内容に興味がある | |
日本 | 12.8 | 26.0 | 26.1 | 32.5 |
OECD平均 | 30.8 | 31.5 | 38 | 53.1 |
皮肉なことに、テストの得点としてはOECD平均より高いのにも関わらず、数学への興味・関心はぐっと低い。
これがあったら最強なのに…
結局、日本にもイギリスにも課題はある。
イギリスの課題
イギリスの子どもたちは、数学や科学の知的刺激がこれだけありながら、それがテストで得点に結びつかない。PISAの結果が出た後、「なんで日本の子どもたちはそんなによく出来るの!?」と悲壮な顔である友人に聞かれた。
それは日本人である霧立には明白だった。それは、イギリスの子どもたちはこなしている問題量が絶対的に足りてない、ということだ。しかし、彼らはそれに気づいていない。
イギリスの子どもたちは、楽しく学んでいてそれは大変結構なのだが、練習問題を全然やらない。彼らはやっているつもりなのだが、日本人の1/10くらいしかやっていないような印象だ。
掛け算九九もいい加減。日本なら2年生の2学期で全員出来るようになりそうだが、イギリスでは小学校卒業までに出来れば御の字、という雰囲気。(何をそんなにダラダラやっているのか…。)

「ダラダラ」の原因はこれだ!九九は、日本のようにゴロで覚えるのではなく、こういった表を目で見て覚える。絶対間違えそう…。
5年生で、まだ時計が読めない子どもも珍しくないという。それなのに、数学に対する「自信」も日本の子どもたちより高いというデータもあるから、驚きだ。
また、夏休み、冬休みのような長期休みにも宿題は一切出ない。塾の講習などあるはずもなく、夏休み中、一問の算数の問題も解かず、一冊の本も読まずに終わってしまう子どももいるだろう。
(何をやっているのかって?暇を持て余してとんでもないことをする子どももいるのだ。↓)
いくら知的刺激があっても、こんなにのんびりしていては学力が付くはずもない。
日本の課題
日本の学校では、数学や科学の世界の面白さを体験させる機会が少なすぎる。その世界の魅力を見せる前に、問題解き方だけをさっさと教えてしまう。
正解をどれだけ早く出せるかが大事とされているのだ。数学や科学を机の上だけの世界に閉じ込めてしまっている。そこに夢はない。
誰だって、自分の生きている世界と関係ない物事には興味を持てない。しかし、親が子どもに数学や科学の魅力を体験させる機会を作ってあげることは出来るだろう。
- プラネタリウム
- 日本科学未来館
- はまぎん こども宇宙科学館
- 国立科学博物館
イギリスの「無料」に慣れきっている霧立には、「げ、有料!高いっ!」と思ってしまうが、なかなか充実していそう。
数学に関しては、先ほどの『数の悪魔』に加えて、フィボナッチ数列で有名なこの本も評価が高い。
なにより、親が子どもと一緒に興味を持ってあげることがとても大事なような気がする。学校や塾任せではなく、数学や科学の世界を子どもと一緒に旅することは結構おもしろいはず。 親の「面白い!」という気持ちは、子どもをの関心を育てる上で一番効果的かもしれない。