“How are you?”はあなたが元気かどうか聞いているわけではない!
“How are you?”
(「元気ですか?」)
日本の英語教育で、一番初めに教えられる会話表現。しかし、この表現の本当の意味を教えている英語の先生はどれだけいるだろう?
というのも、霧立は海外生活はそれなりに長くなってきたが、この表現の使い方を最近になってやっとはっきりと分かってきた、というくいら理解しがたい「魔の表現」だと思うからだ。
“How are you?”の本当の意味
結論から言ってしまうと、”How are you?”というのは、単なる会話のスターターだと思っていい。相手はあなたが元気かどうか本気で聞いているわけではない。
日本でいえば「こんにちは」くらいの表現だと思っていいだろう。これを「元気ですか?」と文字通り翻訳するから混乱するのだ。
日本語で「元気ですか?」と聞かれたら、「元気」以外にも「最近忙しくて疲れている」とか「今ちょっと風邪気味で…」とか様々な返事の仕方がある。
しかし、英語で”How are you?”と聞かれたら、返答の仕方はただ1つ!
「元気です!」
と答える。いいですか?たとえあなたが風邪をひいていようが、寝不足だろうが、トラブル続きで最悪の状況だろうが、何だろうが、
「元気です!」
と言うのだ。
これが「こんにちは」に準ずる挨拶表現でしかないことを、実例をもって説明してみよう。
病院でも”How are you?”
病院に行くのは普通具合が悪いから。しかし、病院でも受け付けの人や、担当医から
“How are you?”
と開口一番聞かれる。
元気なわけないデショ!
とツッコみたくなるが、これはまさに彼らが体調を聞いているわけではないという最適な例だ。決して彼らが無神経なわけではない。
返事を待たないで話し出す
霧立の友人で、せっかちな人がいる。彼女は”Hi, how are you?”と聞いた後に、霧立の返事も待たずに「あのね、」と話し出すことがたまにある。
初めは、「オイ、まだ返事しとらんがな!」と思ったが、これも別に挨拶以上の意味はないと考えれば特に失礼なわけではないのだ。
答え方のあれこれ
日本の英語教育では、”How are you?”に対しては、
“I am fine thank you, and you?”
などと答えると教えられる。しかし、実際にはそのように答える人はめったにいない。では実際にはどういう返答が一般的なのだろうか?
- “Fine.”
- “Great!”(これはアメリカで多いと感じた。)
- “Good.”
- “Not too bad.”(イギリスでたまに聞く。)
- “I’m all right.”
- “I’m doing OK.”
*”Not too bad.”というのは、「まあまあ元気だよ」という意味。
それから、
“Fine, thanks. And you?(How about you?)“
(元気よ、ありがとう。あなたは?)
などと相手に聞き返すことは大事な礼儀。もっとも中身のある返答は期待しないで聞くのだが…。一応ね、失礼にならないようにネ…。
親しい人が聞く場合
しかし、例外はある。親しい人が”How are you?”と聞いてきた場合である。初めは上記のように”Fine, thanks; and you?”の一通りの「儀礼」を済ませてから、本当の様子を伝えることがある。
「元気よ。」と言っておきながら「でもね、実は最近…」というように。ちょっとおかしな感じがするのだが。
この間も、友人に”How are you?”と聞いたら”Fine…..I am sooooo tired!”(「元気よ。あーもう疲れたわぁー!」)と言っていた。「全然”fine”じゃないじゃん!」って感じなのだが、これは友人間ではよくある普通の会話である。
あるいは、家族のような親しさだったら「儀礼」をすっとばして「実は最近いろいろ大変なの…」と話し出すこともある。これは日本人にも共感できるコミュニケーションの方法だ。
番外編:中国の挨拶表現
中国でも似たような儀礼的な挨拶表現があるという。
“吃了吗 (Chī le ma)?”とは直訳すれば「ごはんもう食べた?」という意味。主に年配の人たちの間で使われている表現だ。
しかし、これは”How are you?”と同じような挨拶表現で、本当に相手がご飯を食べたか聞いているわけではないそうだ。
なぜ食事を済ませたかどうかが儀礼的な挨拶になったのか?それは、食事を済ませているか否かが人々の機嫌に著しく影響するからだという。つまり
「おなかがいいっぱい」=「ハッピー」
ということだ。
また昔は食料が乏しかったため、「ちゃんと食べられているのか?」=「ちゃんとやっていけてる?」(”Are you all right?”)的な意味から挨拶表現になったという。
しかし、実際にはお腹がすいていても、相手が食事に招いてくれると期待してはいけない。単なるこれも儀礼的な挨拶表現だからだ。しかし、もっとも若い世代では”你好 Nǐ hǎo!”(「ニーハオ!」)が一般的。
世界中には、まだまだ字義通りでない挨拶表現がありそうだ。
おわりに
霧立はいまだにこの儀礼的な”How are you?”が苦手だ。特に最近大変なことが重なって落ち込むことが多かったから、そんな時、会う人会う人から”How are you?”と聞かれて”I’m good.”などと答えなければならないのは、苦痛だった。
元気でなくても元気であるように振る舞うことが期待されている、というのは結構疲れる。しかし、イギリスでは公の場では感情を隠すことが礼儀だと考えられているのである。
だから、イギリス人は公の場で大声で怒ったりすれば「野蛮」だと思われるし、涙を流したり、大声で笑ったりもあまりしない。イギリス人がすましている印象なのは、こういった感情をあまり出さないということと関係しているだろう。
“How are you?”-“Fine, thanks; and you?”はいわば、社交上の「公式」みたいなもの。単純に言葉の意味からは理解しようとすると、たちまち本意を取り違えてしまう。
霧立は日本の英語教育では、そんなことは教わらなかった。言語教育には文化理解が不可欠だとつくづく思う。言葉や表現方法だけ習っても、本当の意味での「コミュニケーション」は成立しない。
でも、だからこそ、その国の住んで文化を学ぶのは面白い。