「姑」が二人いる私【口うるさい姑編】
突然だが、私には「姑」が二人いる。いや、別に離婚経験があるわけではない。正確に言うと、一人は本当の姑(夫の母)で、もう一人は男の「姑」である。
この男の「姑」とは、私の友人の山中さんだ。以前、このブログにも登場した「山の中に住む山中さん」だ。
山中さんは、直接私に対してあれこれ言ったことはない。しかし、彼の妻・まどかさんに「超口うるさい姑」のように家事のやり方にあれこれダメ出しをする。その口うるささは、漫画級。
まどかさんも「うちには姑がいるみたいよ、ホント!」と笑って言っている。そして、彼がただの「口うるさい夫」でなく「姑」と言われるゆえんは、彼が家事全般を完璧にこなす能力にある。
霧立は、まどかさんから山中さんの「姑ぶり」をたくさん聞いてきたので、いつの間にか自分が家事で手を抜ている時に、
「あっ…!これじゃ山中さんに言われちゃう!!」
と考える癖がついてしまった。(そして、結構な頻度で山中さんは登場する…。)遠い海を隔ててまで迫ってくる山中さんの無言のプレッシャーは、まさに霧立にとって「姑パワー」だ。
こうして、いつの間にか山中さんは「口うるさい姑」として霧立のうちにすっかり内面化されてしまったわけだ。山中さんにしてみたら、とんでもなく迷惑な話だろう。
一方、霧立の本当の姑は山中さんとは正反対のタイプ。口うるさいと感じたことは一度もない。「姑の鏡」みたいな人だ。霧立は、この正反対な「二人の姑」から、まったく別の種類の「人生の知恵」をたくさん学んできた。
今日は、「口うるさい姑」から霧立が学んでいることを書こうと思う。
「口うるさい姑」が出す指示
料理&食事
- 「野菜の皮を剥くときにピーラーを使ってはいけない。」まずはきちんと包丁で剥けるようにする。包丁使いが上達したなら、ピーラーを使っても良い。
- 「お味噌汁を作るときは、味噌こし器を使うように。」直接味噌を入れると、お味噌汁の中に味噌の粒が残り、舌触りが悪い。
- 「パンを焼いたら、上にかけた粉はテーブルに出す前に払う。」余分な粉がついていると食べにくいし美味しくない。
- 「余った料理を冷凍してはいけない。」冷凍すると味が落ちる。たくさん作って冷凍するというのはもっての他。
- 「お米も食べる分だけ炊く。」ご飯は炊き立てをお櫃(おひつ)に入れてから食べるもの。
- 「盛り付けは美しく。」お椀にご飯やみそ汁を入れすぎると、見た目が美しくない。もっと食べたい場合は、お替りをすべき。
- 「お椀は漆塗りを使うこと。」
- 「お箸置きは有田焼・伊万里焼のものを必ず使う。」
- 「プラスチックタッパーではなく、ホーローを使う。」
- 「電子レンジはいらない。電化製品は美しくない。」
- 「圧力鍋は見た目が美しくないから、置いてはいけない。」
- 「トースターも美しくないから置かない。オーブンで温めればよい。」
- 「ケチャップは買うものではない。自分で作るものだ。」
- 「シンクの周りはいつも水滴がたれていないように拭く。」
- 「常に調理スペースはきれいに保つ。片付けながら調理すること。」
……
はっきりいって枚挙にいとまがない。しかも、まどかさんも相当お料理をやる人なので、パンやお菓子はもちろんすべて手作り。あんこもお味噌も作る人。化学調味料を使わないとか、そんなのは当たり前のレベルだ。最近は、田んぼまで始めたと聞いた!
山中さんは、自分でもバターやハム、スモークサーモンなんかも作っちゃう。ゲストが来た時や週末は彼がシェフ顔負けの腕を振るってくれる。また、鶏を絞めたり、野生のシカをジビエとして調理することもあるほどの人だ。

山中さんが作ってくれたスモークサーモン。奥に見えるサラダに入っているハムも彼の手作り。
単に彼が「口うるさい夫」ではない、というのがお分かり頂けたと思う。
家事・生活
- 「洗濯の畳み方はきれいにそろえる。」靴下は3つ折りではなく2つ折り。
- 「脱いだものはきれいに畳んで片づける。」床に脱ぎ散らかしているのを娘が真似するといけない。
- 山中さんが帰宅するまでに、きちんと家の中の掃除を終えておくこと。(忙しくて終わっていない場合、まどかさんは事前にメールを送って事情を説明しておくそうだ!)
- 「ウォシュレットは要らない。」トイレにコントロールパネルが付いているのは見苦しい。
- 「自分に合った服だけを着るべきだ。」まどかさんは結婚前付き合っていた時に、彼女に「似合っていない」洋服を、山中さんに全部捨てられたそうだ。ひぇ~!!
そういえば、(いつも山中さんって同じ格好しているな~。ファッションにはさすがに興味ないのかな?)と思ったことがある。しかし、それは大間違いだったのだ!
彼は、自分の好みに合う洋服を見つけると、全く同じものをいくつも買ってくる、ということをまどかさんから聞いた。だからいつみても同じ洋服なのだ。やっぱり山中さんは、タダモノではない…。
「口うるさい姑」の意見に耳を傾ける理由
これだけ書いていると、読者は「山中さんって、なんか変な人なんじゃないの…?」と不審に思うかもしれない。確かにこれだけ見ると、相当変人だ。まあ、霧立もそれを否定しないわけではない…。
しかし、彼は同時にとても素晴らしい人なのである。とても穏やかで優しく、聡明で働き者。理想を掲げ、それに向けて進んでいく人。自分の確固とした生き方を持っている人だ。
今、こんなに山中さんが丁寧な生活を心掛けているのも、一人暮らしをしていた20代の頃に生活が荒れ果てていたことの反省に立っている、と話してくれたことがあった。これ以上続けると、精神的に荒むと思って、漆塗りのお椀と、有田・伊万里焼のお箸置きを必ず使うと決めたそうだ。
鶏を絞めたり、野生のシカを調理して食べることもある山中さんは、
いのちを頂いている食事だからこそ、最高に洗練された文化にして食べなければならない
と言っている。山中さんの作る料理は、確かにミシュランで2つ星はいくかもしれない、というほど手が込んでおり、味も洗練されている。食文化について、山中さんは相当研究している。
霧立は、山中さんのそんなところを尊敬しているのだ。だから、山中さんは「口うるさい姑」だけど、彼(彼女?)の言っていることに耳を傾ける。
でも、全部聞いていられるわけでもない。「ピーラー使うな」とか思い出すと、(そんな時間ないわよ!)と心の中で反論しながら、ピーラーを使ってニンジンの皮を5秒で剥く。まどかさんのように洋服捨てられたら、「お義母さま!もう金輪際里帰りしません!」って心境になるだろう。(そんなこと霧立にはするはずないが。でもまどかさんも、すごい人格者だと尊敬する。)
山中さんの家はドリーム・ハウス
山中さん一家のライフ・スタイルは霧立の目指す方向性とすごく近い。また彼らの家は霧立にとって「ドリームハウス」だ。とても素敵でリラックスできる家なのだ。

吹き抜けを二階から見下ろしたところ。薪ストーブの上で、まどかさんがコトコト小豆を煮ている。餡子を作って、あんぱんに入れるためだ。外は雪だけど、この家の中は静かにじんわり温かい。
一時帰国したときに、霧立一家は泊りがけで山中さん一家を訪ねた。真冬で外はマイナス10℃の世界なのに、この家ときたら、家中がぽかぽかなのだ。
秘密はこの薪ストーブ。たった一つのストーブなのに、吹き抜けになっているために、天井部分まで露出している煙突によって効率的に家全体が温められているのだ。
朝も、出勤するために山中さんが一人早起きして、薪ストーブに火を入れてくれる。私はまだ半分夢の中でまどろみながら、「パチパチ…」という木のはぜる音を聞く。幸せの音…。
すでに前日の夜からの薪ストーブの余熱で十分温かいのだが、起きた瞬間から部屋が暖かいって、なんて快適なんだろう!と思った。
家に置いてあるものも、一つ一つ厳選されている。ティッシュボックスや、ゴミ箱、冷蔵庫のデザインにすらこだわる。「量販家電ショップでは、自分たちの欲しいものは見つからない」とまどかさんは以前言っていた。
霧立も、インテリアにはかなりこだわる。だから適当に物を買わない。でも山中さんはそれ以上だ。だからこそ、大いに学ぶところがある。
山中さんは「口うるさい姑」。でも言うだけのことはある人と分かっているから、勝手に内面化してしまうのだろう。いつか、山中家にまた「勉強合宿」に行かせてもらいたいものだ。そして、いつか山中家のような居心地の良い家を建てるのが、霧立の夢だ。